1.逮捕された関係者に対する警察の取調べ要請と捜査上の意図
身近な存在である交際相手や配偶者が突然逮捕された場合、捜査機関から関係者に対しても警察署への出頭や取調べを求められる状況は珍しくありません。警察からの連絡を受けると、何を聞かれるのか、どのような立場に置かれているのか、心配になることはあると思います。捜査機関が逮捕された人物のパートナーに対して取調べを試みる目的は、大きく分けて二つの側面が存在します。
重要な点は、これら二つの側面が明確に分離されているわけではなく、捜査の進行に伴って流動的であることです。警察からの連絡時には「少しお話を聞きたいだけ」と説明されることが一般的ですが、捜査機関内部として、抽象的には双方の可能性を視野に入れています。
自分自身に犯罪の認識が一切なかったとしても、捜査機関の捉え方によっては不利益な立場へと推移する可能性があることは、理解しておく必要があります。
(1) 生活状況の確認
一つ目の側面は、逮捕された本人の日常の生活状況や交友関係、行動パターンなどを把握するための純粋な参考人としての取調べです。
捜査機関は事件の背景や本人の人物像を把握するため、周囲にいる人物からの情報を集めます。事件当日の本人の様子に留まらず、日頃の自宅での言動、金銭状態などについて質問がなされます。捜査の主たる対象はあくまで逮捕された本人であり、呼び出しを受けた人物は第三者としての協力者に過ぎません。
(2) 潜在的な事件関係者
二つ目の側面は、呼び出しを受けた人物自身が事件の共犯者や関係者として疑われている可能性があります。
捜査機関は、事件の全貌を解明する過程で、身近なパートナーが犯罪行為の存在を知っていたのではないか、あるいは盗品の保管や資金の管理、逃走の補助などに関与していたのではないかという疑いの目を向けることがあります。
捜査機関として、抽象的な疑いに過ぎず、確信がない場合は、参考人として取調べという方式をとることがあることは、否定できません。
2.単なる参考人から共犯者へ切り替わる潜在的リスクと供述の性質
取調べの要請を受けた際、「自分は直接事件を起こしたわけではないから関係ない」あるいは「真実をありのままに話せば問題ない」と考え、警察の質問に全面的に応じようとすることは自然なことです。しかし、法的な評価においては、当事者の主観的な認識と客観的な罪責が必ずしも一致しない場合があります。自分では単なる手伝いや相談に乗った程度だと考えていた行為が、法的には犯罪の実行を容易にした幇助行為や、共同して犯罪を実行した共同正犯と評価されることはあり得ます。
取調べの場で捜査官から投げかけられる質問に対し、良かれと思って話した事実が、結果として自分自身の犯罪成立を裏付ける証拠として採用される危険性があります。例えば、相手から預かった荷物の内容を知らなかったと主張していても、「怪しいとは思っていたのではないか」「普通の荷物ではないと感づいていたのではないか」といった追及に対し、曖昧な回答や推測による証言を行ってしまうと、故意や認識があったと認定される口実を与えてしまいます。一度作成された供述調書に署名押印をしてしまうと、後からその内容を撤回することは困難になります。
捜査機関に協力して事実関係を説明する行為は、誠実な対応に見える一方で、自らに対する捜査の端緒を提供し、刑事責任の追及を招く結果になりかねません。警察は取調べを通じて、逮捕された本人との共謀関係や意思の疎通がどこまで存在したかを確認してきます。主体的に行動したのは相手であったとしても、具体的な事情によっては、関与が認められれば被疑者として扱われる可能性はあるのです。
3.被疑者側の弁護人と関係者との間に生じる利害対立の構造
パートナーが逮捕された直後、逮捕された本人のために選任された弁護人と連絡を取ることになります。その際、本人の弁護人から「知っていることをそのまま警察に話して問題ありません」「捜査に協力したほうが本人のためになります」といった助言を受けることは多いです。こうした助言を受けると、専門家である弁護士が大丈夫と言っているのだから取調べに応じても安全であると考えることになりますが、ひとつだけ注意すべきことがあります。
逮捕された本人の弁護人は、本人の利益を最優先にして活動する義務を負っています。弁護人が本人の無罪を主張している場合であれ、罪を認めて情状酌量を求めている場合であれ、その活動方針は本人の刑事責任を軽減することに向けられています。もし、関係者であるパートナーが警察で一定の証言をすることが本人の弁護にとって有利に働くと判断された場合、弁護人は関係者に対して捜査への協力を促すことがあります。このとき、その協力行為が関係者自身にどのような法的不利益をもたらすかという点については、考慮はしますが、必ずしも本人の弁護人の主たる考慮対象とは言い切れません。
さらに、弁護士の倫理規定上、利害が対立する複数の人物を同時に弁護することはできません。逮捕された本人と、その共犯者として疑われる可能性のあるパートナーは、本質的に利害が対立する関係にあります。一方が他方に罪をなすりつける可能性や、責任のなすり合いが生じる可能性があるためです。したがって、本人の弁護人としては、本人のパートナーが共犯者になりえると認識した場合、対応に苦慮することになります。
本人の弁護人は、本人のパートナーに対して、その立場から、必ずしも適切な助言者にはなり得ない場合があるのです。
4.任意捜査における出頭の任意性と取調べへの対応
警察から取調べのための出頭を求められた場合、直ちにこれに応じなければならない義務が存在するわけではありません。逮捕や勾留といった強制処分を受けていない限り、関係者に対する取調べはすべて任意捜査として行われます。
したがって、自身の準備が整わない段階や、不安が払拭されない状況で警察署へ出向く必要はありません。出頭の時期を延期することや、要請自体を拒絶することは法律上認められた正当な権利です。また、仮に出頭して取調べに応じた場合であっても、供述する義務が生じるということはなく、いつでも退席できます。
取調べの最終段階で作成される供述調書についても、慎重な対応が求められます。警察官が作成した調書は、録音や録画がなされていない限り、捜査官のニュアンスや解釈が混入しやすい性質を持っています。調書に記載された内容が自分の意図した発言と異なる場合や、納得がいかない表現が含まれている場合は、訂正を求める権利があります。捜査官が修正に応じない場合は、調書への署名や押印を拒否することになります。一度署名押印をした調書は、裁判において証拠として扱われます。
5.身近な人の逮捕直後に求められる慎重な状況把握と行動規範
パートナーが逮捕され、自身にも取調べの打診がなされているという場合では、まずは性格に状況を把握しなければなりません。特に、自身として、事件にどのように関係しているのか、あるいは全く関係していないのかについて、客観的に判断する必要があります。
少しでも懸念がある場合には、逮捕された本人の弁護人ではなく、自らの権利と立場を守るために別の弁護士に相談し、自己の防御態勢を整えることが必要になるかもしれません。
警察からの連絡や取調べ要請は、放置すれば事態が自然に解決する性質のものではありません。何か引っかかる部分がある場合には、パートナーの事件ではなく、一旦は自分自身の事件であると受け止めて、事実関係を整理してみることが有益です。その結果として、自身はあくまでも参考人に過ぎないと判断できれば、パートナーのために全面的に生活面などの情状面で協力していくことができるようになるのです。
