1.弁護士の介入が紛争を激化させるのか
法的トラブルや人間関係の対立に直面した際、弁護士の関与を躊躇させる方は珍しくありません。弁護士に依頼することで費用が発生することもあるでしょうが、「弁護士を立てると大ごとになるのではないか」「相手の態度が硬化して、修復できたはずの関係が完全に壊れてしまうのではないか」という懸念を抱く方が多いようです。
実際に、弁護士という存在そのものに対して嫌悪感や拒絶感、あるいは強い警戒心を持っている相手であれば、弁護士が代理人に就いたという事実だけで一時的に緊張が高まったり、対話の姿勢が硬直化したりすることはあり得ます。しかし、この表面的な現象だけを捉えて、弁護士を関与させることが事態を悪化させると結論付けるのは正確ではありません。
紛争解決の局面において、対立が表面化することを過度に恐れるあまり、本質的な問題から目を背けてしまうことは、結果として自身の権利や財産を深刻な危険に晒すことにつながります。
2.円満に見える話し合いの裏に潜む妥協と我慢
弁護士を入れずに当事者同士で話し合っていた時期には、一見すると大きなトラブルもなく、穏便に交渉が進んでいたように思えることもあります。しかし、その円満さの内実を振り返ると、実際にはどちらか一方が言いたいことを十分に主張できず、相手の強い口調や不当な要求にしぶしぶ従っていたに過ぎないという場合が珍しくありません。
つまり、一方が多大なる我慢を重ねることで、見かけ上の調和が保たれていた状態です。このような不均衡な関係性において、自身の正当な利益を守るために弁護士を介入させれば、当然ながらそれまで保たれていた見せかけのバランスは崩れ去ります。相手方からすれば、これまで穏便に進んでいた交渉が遮断され、法的な反論を受けることになるため、不満を抱くことになります。
その結果として「弁護士がかき回して事態を揉めさせた」という不満が生じるわけですが、これは弁護士が紛争を作り出したのではなく、それまで一方の犠牲によって覆い隠されていた対立の本質が、正当な形で顕在化したに過ぎません。
当事者本人同士で話し合いを続けていたとしても、得られる結末は、自身が完全に折れて相手の言い分を全面的に受け入れるか、あるいは平行線のまま決裂するかのいずれかであり、真の解決とはいえません。
3.話せばわかるという期待の限界と交渉が塩漬けになるリスク
そうであっても、話合い自体は穏便に進められており、お互いに冷静に話し合いができていたりすると、時間をかけて話し合っていれば、いずれお互いの理解が深まり、円満な合意点が見つかるはずだという期待を抱くかもしれません。しかし、利害が真っ向から対立し、法的責任の所在が問われている状況下において、話せばわかるという保証はどこにもありません。
お互いの言い分が根本から異なっている場合、誠意だけでは解決できないことは良くあります。結局、事態は一歩も前進せず、交渉そのものが数ヶ月あるいは数年にわたって塩漬け状態になる事案は日常的に発生しています。
また、一見すると話し合いによって解決したかのように見える事案であっても、実際には納得がいかないまま理不尽な条件を押し付けられ、後々まで深い遺恨を抱え続けるという不本意な結末を迎えることもあります。法的紛争において、客観的な基準を欠いたまま終わりのない話し合いを長引かせることは、解決を遠ざけるだけでなく、当事者の時間と心労だけを重ねていくという結果となることは間々あります。
4.弁護士の関与によって顕在化する対立と真の合意形成
弁護士が介入することによって本格的な揉め事に発展したとされる事案の多くは、そもそも潜在的に極めて深刻な対立が存在していたものです。ただ、一方が声を大にして主張し、他方が萎縮して沈黙していたために衝突が表面化していなかっただけであり、遅かれ早かれいずれは大きな紛争として破綻することが避けられない運命にあったといえます。
弁護士は、感情的な水掛け論や理不尽な力関係のやり取りへの関心は薄いです。弁護士は、客観的な証拠を確認し、個々の事実について争いの有無を整理し、争点となっている事実は何かを確認します。その上で、本人がどの部分について、どこまで譲歩できる余地があるのかを確認していきます。
弁護士が介入し、法律の専門家としての視点から事実関係を整理していくことは、一時的な緊張や相手方の反発を生み出すかもしれません。しかし、それは将来の不確実性を排除し、真の意味で対等な関係による合意を形成するために必要なプロセスです。
5.納得のいかない妥協を拒絶し自身の正当な言い分を通すための選択
本当に自らの正当な言い分を通したい、あるいは不当な要求を退けて、合理的な範囲で解決したいと考えるのであれば、相手方に対して過度な遠慮や配慮をすることは控えるべきです。周囲との調和や一時的な平穏を最優先にするあまり、自身の法的な権利をあらかじめ放棄して相手の理不尽な要求を飲み続けることは、適切とは言い難い面があります。
納得ができない状況であるならば、弁護士を代理人として選任して明確な意思表示を行うことは正当な権利行使の手段であり、必要であれば裁判所の手続き(訴訟の提起)を選択することも、標準的な手段です。
裁判は、単に相手と感情的に敵対するための場所ではなく、客観的な証拠に基づいて中立な裁判官の判断を仰ぎ、紛争を強制的に解決するための制度です。いずれ顕在化する対立であるならば、初期の段階から代理人を交え、法的な土俵の上で堂々と主張を展開することは合理的です。相手の態度が硬化することを恐れて対応を先送りにしても、事態が好転することはありません。
