偽装結婚に加担してしまった方へ|形式的な手続きに潜む公正証書原本不実記載罪

1.形式的な婚姻届の提出と「婚姻意思」の不在

役所の窓口においては、提出された婚姻届に必要な記載事項が揃っており、形式的な要件を満たしていれば原則として受理されます。しかし、役所の窓口で書類が受理されたという事実と、法律上で有効な婚姻が成立しているかどうかという問題は、全く別の次元の事柄です。知人や交際相手から頼み込まれ、役場へ婚姻届を一緒に提出し、証人欄にも署名をもらった上で受領されたとしても、それだけで法的に何らの問題もない正当な夫婦関係が成立したとは言えないときがあります。

婚姻が法的に有効と認められるためには、届出という形式的な手続きだけでなく、当事者間に「社会通念上夫婦とみられるような共同生活に入る意思(婚姻意思)」が存在することが求められます(民法第742条第1号)。単に書類上の手続きを済ませただけであったり、相手の困窮を助けるためという名目で名前を貸したに過ぎなかったりする場合は、この婚姻意思が存在しないことがあります。

特に問題となりやすいのは、外国籍の方が日本国内での在留資格(日本人の配偶者等)を取得・維持する目的で、実態のない婚姻関係を利用する事案です。日本人側には、通常は婚姻する直接的なメリットが生じることは通常考えにくく、対価として現金を受け取ったり、借金を帳消しにしてもらったりする約束が存在する場合は、最初から歪んだ目的を持った取引であると評価されるおそれがあります。

二人が納得して書類を出したから大丈夫であるという主張は、法的意味における婚姻意思の存在を証明するものではありません。共同生活を営む意思が存在しない婚姻は、法的には無効と判断されることになります。

2.行政手続きを悪用するブローカーの手口と巧妙な言葉巧みな説得

実態の伴わない婚姻届が提出されるときに、当事者二人だけで自発的に計画を立てることは珍しいです。当事者二人で相談して決めた場合には、そこまで信頼関係があるということであり、婚姻意思が認められ得ることもあるでしょう。

実際に問題になりやすいのは、法制度や手続きの隙間を熟知した仲介者、いわゆるブローカーが介在している場合です。こうしたブローカーは、法律知識の乏しい個人に対して巧みな言葉を投げかけ、犯罪行為への心理的ハードルを下げようとしてきます。

「二人で納得して同意しているのだから、合意に基づく正当な結婚だ」「交際期間が短くても、お互いの気持ちがあれば何の問題もない」「一緒に暮らさなくても、出稼ぎや仕事上の都合という理由があれば合法だ」といった説明は、ブローカーが相手を安心させて手続きを進めさせるための典型的な説得パターンです。

さらに、摘発を免れるための工作として「二人が親密そうに写っている写真を何枚か撮影しておけば、当局にも説明できる」などと持ちかけ、あたかも形式を整えさえすれば法律上の問題が解消されるかのように説得してきます。

しかし、これらの主張や準備された言い訳は、捜査機関や行政機関の追及を逃れるために作られた表面的な偽装に過ぎません。法的な評価においては、そのような作り込まれた形式や言い逃れが直ちに信用されることはありません。

婚姻に至る経緯や実際の生活状況が客観的に評価されます。知り合った時期、そこから婚姻至るまでの期間、その期間での当事者の交際関係や生活実態、婚姻後の生活実態など総合的に吟味されます。生活実態については、警察により内偵捜査がされることもあり、実態に沿わない説明などは露呈してしまいます。

悪質な業者や相手方の「大丈夫だ」という言葉を信用して手続きに応じしまったとしても、その言葉が自身の法的な責任を免除する理由になることはありません。

3.罪に問われる法的責任と「知らなかった」では済まされないこと

夫婦関係を築く意思が存在しないにもかかわらず、役所の窓口へ婚姻届を提出し、戸籍に不実の記載を行わせる行為は、国家の公的な証明機能を害する重大な犯罪行為に該当します。具体的には、公務員に対して嘘の申告をして戸籍という公的に証明力のある書面に事実と異なる記載をさせたとして、(電磁的)公正証書原本不実記載罪が成立します(刑法第157条第1項)。

「相手を助けたい一心だった」「不法な行為になるとは深く考えていなかった」といった弁明をしたとしても、直ちには刑事責任を回避することにはなりません。犯罪が成立するために必要な故意は、犯罪を成立させる事実の認識で足ります。つまり「婚姻意思がないにもかかわらず婚姻届けを出した」ことの認識で足りてしまうのです。それが犯罪になることまでの認識(違法性の認識)は、犯罪の成立要件ではありません(刑法38条)。

特に、婚姻の協力と引き換えに金銭などの利益を得ていたり、債務の免除を受けていたりする事情が存在する場合、裁判所や捜査機関からは「婚姻するためではなく、経済的利益を得るために婚姻届を提出した」と推認されることになります。最初は単なる頼み事として軽い気持ちで応じてしまった場合であっても、重い刑事罰を科される対象として扱われてしまいます。

4.時間の経過や生活の実態が法的に評価される基準

ある婚姻が偽装されたものであるか否かの判断は、提出された書類の記載だけで定まるものではなく、その前後の生活の実態や当事者間の関係性という客観的な事実に基づいて総合的に評価されます。捜査機関は、当事者が主張する説明ではなく、積み重ねられた生活の実態を調査します。

評価の対象となる具体的な要素としては、二人が現実に同じ住居で同居し、生活空間を共有しているか、食費や光熱費などの生活費がどのように管理・負担されているか、日常的なコミュニケーションが継続して行われているかなどが挙げられます。単に住民票の上の住所を一致させているだけで、実際には全く別の場所で生活していたり、室内に一方の生活用品や衣服が一切存在しなかったりする状態は、捜査機関による現地調査や聞き込み、内偵などによって容易に看破されます。

あらかじめ用意された写真や、事前に口合わせされたストーリーが存在していたとしても、当事者に対する個別の事情聴取が行われれば、細かな生活習慣や日常の出来事に関する供述から矛盾が浮き彫りになります。実態を伴わない形だけの夫婦関係をどれほど取り繕おうとしても、時間の経過とともに客観的な不自然さは明確になるため、表面的な偽装によって法的な追及を逃れ続けることは不可能というべきです。

5.不当な犯罪加担から抜け出し事態を収束させるための初期対応

相手方からの頼みを拒めずに婚姻届を提出してしまったものの、後から事の重大さに気づき、事態を収束させたいと悩んでいる場合、これ以上の不当な事態の悪化を防ぐための行動を迅速にとらなければなりません。

最初に行うべきことは、相手方やブローカーとの間で交わされたメッセージの履歴、メール、通帳の入出金記録など、これまでのやり取りを示す関係資料を一切消去せずにそのまま保管しておくことです。相手方から「証拠となるデータを消すように」と指示されることがあっても、応じるべきではありません。証拠を破棄する行為は、ご自身の関与の程度について説明する資料を失わせ、ご自身の立場をさらに悪化させる原因となります。

また、捜査機関や関係行政機関から問い合わせや調査を受けた際に、その場を取り繕うために虚偽の説明を重ねることも避けるべきです。嘘の弁明を続けることは、自身の行った行為に対する反省の欠如とみなされ、後に刑事処分が決定される際にも極めて不利な情状として扱われることになります。

ご自身がどのような経緯で手続きに関与することになってしまったのか、相手からどのような説明を受け、どのような利益のやり取りがあったのかという事実関係を時系列で整理し、客観的な状況を把握することが重要です。虚偽の事実によって作られた戸籍上の関係をそのまま放置し続けることは、さらなる法的リスクを抱え続けることを意味します。犯罪への不当な加担から抜け出すためには、関係者ではなく、第三者である弁護士に相談するなどし、場合によっては警察自首することも視野に入れ、状況を整理していくことが、平穏な生活を取り戻すことにつながります。

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