新証拠と主張変遷が裁判官に与える影響|訴訟途中における主張の変遷

1.訴訟途中における主張変更と裁判官による信用性評価の構造

民事訴訟の審理が進む中で、それまで行ってきた主張と新たに見つかった証拠との間に食い違いが生じることがあります。当事者としては、一度裁判所に提出した自らの主張を変更することは、自身の言い分の信用性を失わせるのではないかと心配することがあります。

しかし、客観的な証拠によって証明される事実が存在する場合に、結果として誤りであったこれまでの主張を維持たとしても、裁判官にその主張が認められる見込みは薄いと言わざるを得ません。実態と異なる主張に対して、説得的な証拠が存在するはずがないからです。

そのため、結果的に誤りであった主張については、真実に基づいた適切な内容へと切り替えるべきことが通常です。その際に欠かせないのが、なぜこれまで事実と異なる主張を行っていたのかという理由を合理的に説明することです。裁判官は当事者の主張の変遷について、変遷に至る経緯や理由の合理性を注視します。審理においては攻撃防御方法の適時提出が求められますが(民事訴訟法第156条)、事実に対する誤解を真摯に正し、論理的な説明を付すことは、適時提出の内容に含まれていると考えられます。

2.記憶の誤認や思い込みが生じる背景

人間が体験した出来事を後から回想し、主張として構成する過程には、意図的ではない記憶の錯誤や思い込みが生じる余地が常に存在します。当事者が偽りの主張を故意に行っていたわけではなくても、人間の認知の仕組みによって事実とは異なる認識を抱いてしまう現象は決して珍しくありません。

例えば、日付や時期に関する誤認の場合、特定の出来事や年中行事と関連付けて記憶していたものの、その基準としていた出来事自体の日付がずれていた場合があります。また、具体的な事実の認識についても、自分自身が直接目撃した体験であると思い込んでいた内容が、実際には出来事の直後の現場の状況から推察していた事実に過ぎず、時間の経過とともに推測が直接の目撃記憶へと置き換わっていたという状況もあり得ます。

裁判官に対しては、単に「誤解していた」と述べるだけではなく、どのような認識のプロセスを経て誤った主張に至ったのかという内部的な事情を丁寧に釈明すべきです。過ちを過剰に隠蔽しようとせず、記憶の錯誤が生じた背景を整理して示すことができれば、裁判官に対しても不誠実な虚偽の主張ではなく、不可避的な認識のずれであったという理解を促すことができます。新たな証拠の客観性が高い場合ほど、過去の主張の形成過程を自ら分析し、修正の経緯を提示する姿勢が求められます。

3.後から提出される証拠に対して裁判官が抱く疑念

訴訟の途中で新たに発見された証拠を提出するにあたり、注意すべき姿勢は、ただ「この証拠が正しい」とだけ主張し、これまでの主張の誤りや証拠が入手された経緯についての説明を省いてしまうことです。訴訟の一定の段階が経過した後に決定的な証拠が提出された場合、裁判官はまずその証拠が偽造されたものではないかという疑念を抱くのが現実です。

裁判官は事案の全容を早期かつ的確に把握するため、重要な証拠はできる限り初期段階で提出されるべきであるという考えを持っています。そのため、時機に遅れて提出される攻撃防御方法に対しては厳しい視線を向け(民事訴訟法第157条第1項)、相手方の主張に対する反論として提出されたといった必然性がない限り、なぜこのタイミングでその証拠が出てきたのかという理由を意識します。

したがって、その証拠がこれまで提出できなかった理由や、確認に至らなかった事情について、説明を尽くすべきです。

例えば、古い資料の整理の過程で偶然に発見された、あるいは専門的なデータ解析によって初めて復元されたなど、提出が遅れた事情を具体的に説明すべきです。証拠自体の内容だけでなく、その証拠がどのような経緯で提出するに至ったかを提示することで、裁判官をしてその証拠の価値を真摯に評価することが期待されます。

4.当事者と裁判官における事実の認識プロセスと証拠の捉え方

当事者と裁判官とでは、証拠に対する評価の起点が決定的に異なっています。

当事者は自分自身が実際に体験したという過去の記憶や経験を確固たる基準として保持しています。証拠が出てくれば、自分の記憶や経験に照らし合わせて、その証拠の正しさを理解できます。そして、裁判官も自らと同じようにその正しさを理解してくれると考えがちです。

しかし、裁判官は、当事者が経験した過去の事実は経験していません。そのため、裁判官は、全くの白紙の状態で訴訟手続に臨んでいます。裁判官は当事者の記憶を出発点にするのではなく、提出された個々の証拠という素材を基礎として、過去にどのような事実が存在したのかを推認していくプロセスを辿ります。裁判官は自由心証主義の原則に基づき(民事訴訟法第247条)、提出された証拠そのものの信用性や成立の真正、さらには証拠が存在することの自然さを吟味します。

当事者にとってはいかに揺るぎない証拠に見えたとしても、裁判官の視点においては「その証拠がいつ、どのような状況で作成され、どれほどの証明力を有するのか」という評価が先行するのです。

この認識のズレを理解しないまま主観的な正当性を主張し続けても、裁判官の納得を得ることはできません。当事者は自身の体験談に依拠するだけでなく、裁判官が証拠から事実を推論していく思考過程に合わせた立証活動を構築することが不可欠です。

5.新たな証拠と変遷した主張を訴訟活動へ適切に反映させる手続

新証拠に基づいて主張を修正し、訴訟活動へ適切に反映させるためには、順序立った手続の工夫が必要です。最初に行うべき対応は、これまでの主張における誤りの箇所を明示的に指定して訂正を行い、その上で新たな証拠と整合する主張を正確に組み直すことです。

この際、準備書面においては単に新たな事実関係を記載することは当然ですが、前述した「過去に誤った主張を行うに至った事情」及び「新証拠がこの段階で提出されるに至った経緯」を独立した内容として詳細に主張すべきです。

主張を変更すると、相手方からは主張の変遷や証拠の信用性に対する反論が予想されます。それらの反論を想定した再反論の準備も検討しておくべきです。矛盾や不都合な事実を隠そうと画策したり、曖昧な弁明を行うことは裁判官の心証を悪化させます。変遷の事実を正直に認め、客観的な証拠に基づく説明を提示することが、裁判の審理において望ましい姿勢といえます。

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