1.判決確定に伴う裁判所の手続き終了と当事者間における任意履行
民事裁判において判決が確定すると、その訴訟手続は終了します(民事訴訟法第116条)。判決の確定により、当事者間の権利義務関係は確定し、裁判所が果たすべき関与はすべて終了します。判決が出たからといって、裁判所が自動的に債務者の財産からお金を回収して債権者に届けてくれたり、両当事者に対して履行状況を定期的に確認したりすることはありません。
裁判所から元原告や元被告に対して、支払方法を案内する連絡をすることもありません。裁判所による手続が終了した以上、判決に記載された金銭の支払いや請求といった内容を実現するためには、当事者同士が直接連絡を取り合い、自主的に手続を進めていく必要があります。
債権者としては判決内容に基づいた自発的な支払いを求めるか強制執行を申し立てることになり、債務者としても自主的な弁済によって解決を図るか、あるいは強制執行を待つかという判断を迫られます。
裁判所を通さない当事者間のやりとりは、手続上の制約が少なく柔軟な対応が可能である一方、法律的な知識が不足していると行き違いや不測の不利益が生じる恐れもあります。
2.債権者が執るべき催促の方法
債権者は、確定判決を得た後、債務者に対して直接支払いを行うよう催促することが考えられます。すでに裁判所の関与が存在しないため、催促の手法について特定の法律上の定めはありません。電話や対面での口頭による請求はもちろんのこと、電子メール、メッセージアプリ、あるいは記録の残る書面や内容証明郵便を送付するなど、多種多様な手段を選択することが可能です。
実務上は、債務者がスムーズに送金を行えるよう、銀行口座などの振込先情報を通知することが一般的となります。この段階で債務者が自発的に支払いに応じてくれれば、強制執行のような手続や費用を負担することなく金銭を回収できるため、双方にとって経済的・時間的な負担が少ない形で解決に至ります。
債権者としては、一定の猶予期間を設けて任意の支払いを待つか、それとも即時に強制執行の手続きへ移行するかという選択権を有しています。振込先口座や支払期日を正確に伝えた上で、やり取りの履歴を書面やデータとして手元に残しておくことになります。
3.債務者が講じるべき強制執行を回避するための履行手続
債務者の立場においても、裁判所の関与がなくなった後の対応は重要です。確定判決が出されたにもかかわらず、放置したり連絡を拒んだりしていると、不意に財産を差し押さえられるなどの不利益を被る危険が高まります。
債務者が判決内容に従って自発的に支払う意向を有している場合は、速やかに債権者へ連絡を取り、具体的な支払方法と振込先口座を確認する必要があります。法律上の原則としては、債務者が債権者の元へ弁済を持参して支払う持参債務の原則が規定されていますが(民法第484条)、現代の取引実務においては金融機関での振込によって支払う方法が一般的です。
指定された口座へ正確な金額を振り込むことで、弁済としての効力が発生し(民法第490条)、判決に定められた義務を果たしたことになります。これにより、債権者による強制執行の手続きを回避することができます。
なお、弁済を行った際には、債権者に対して領収書の交付を求める権利が認められています(民法第486条)。ただし、銀行振込を利用した場合であれば、金融機関の発行する振込明細書や口座の取引履歴によって支払いの事実が客観的に証明されるため、判決と照らし合わせることで弁済の立証が可能です。
4.債権者の不協力や連絡不能時における法務局への弁済供託
債務者として支払う意思があるにもかかわらず、債権者が非協力的であり振込先口座を教えてくれない場合や、債権者と連絡が取れない状況になることもあります。このような状況を放置すると、債務者は遅延損害金を負担し続けることになったり、強制執行を受けたりするリスクに晒され続けることになります。
このような問題に対応するための制度として、法務局における弁済供託があります(民法第494条)。供託とは、国の機関である供託所にお金を預けることによって、弁済と同一の効力を生じさせ、債務を消滅させる手続きです。ただし、単に供託所に赴けば受け付けられるわけではなく、法律上の要件を満たす必要があります。
具体的には、債権者が弁済の受領を拒絶している場合や、受領することができない場合(受領遅滞)などが該当します。そのため債務者は、あらかじめ支払いを行う準備を整えて債権者に通知するなどの弁済の提供を適切に行い(民法第493条)、受領遅滞の要件を成立させる必要があります。
弁済供託が正当に受理されれば、債務者は法律上正当に支払いを完了した扱いとなります。その後の遅延損害金の発生を停止させ、債権者からの強制執行にも対抗できるようになります。
5.任意履行の不成立時における強制執行手続きと不当な執行への法的対抗策
当事者間での任意履行が成立しない場合、法的な決着は強制執行の手続きへと移行します。債権者がいくら催促を行っても債務者が支払いに応じない場合、債権者は確定判決という債務名義(民事執行法第22条第1号)に基づき、管轄の裁判所に対して強制執行の申立てを行うことができます。
裁判所の手続きを通じて、債務者の預貯金口座、給与、不動産や動産などの財産が差し押さえ、換価された上で強制的に債権へ充当されることになります。
他方で、すでに任意での支払いや弁済供託を完了させ、債務が消滅しているにもかかわらず、債権者が誤って、あるいは不当に強制執行を申し立ててくる事態も皆無ではありません。そのような不当な執行に対して債務者が対抗するためには、裁判所に対して請求異議の訴えを提起する必要があります(民事執行法第35条)。
請求異議の訴えを通じて、判決確定後に弁済や供託を行った事実を客観的な振込明細書や供託書などの証拠によって主張・証明することで、裁判所に強制執行の不許可を命じてもらうことが可能です。同時に、請求異議の訴えの判決が出るまでの間、執行停止の裁判を申し立てて差押え手続きを一時的に止めさせる措置(民事執行法第36条)を講じることも重要となります。
