当事者尋問の事前準備|記憶通りの供述を法廷で再現するための打合せ

1.当事者尋問の構造と立証事項の整理

裁判手続きにおける尋問は、主張された事実関係の可否や証拠の真偽を確かめ、争点となる事項を立証するために実施される証拠調べ手続です(民事訴訟法第190条第207条第1項)。当事者尋問や証人尋問では、尋問を申請した側がまず質問を行う主尋問が実施され、それに続いて相手方が質問を行う反対尋問が行われます。主尋問の役割は、自らが主張する事実関係やそれを補強する事情について、当事者や証人の口から直接語ってもらうことです。一方、反対尋問は、主尋問での供述の矛盾を突いたり、信用性を揺さぶったりするために実施されます。

法廷で与えられる尋問の時間はあらかじめ制限されています。そのため、訴訟で問題となっているあらゆる出来事について網羅的に質問をすることは現実的ではありません。一般的に、事前に提出されている陳述書によって基礎的な事実関係はカバーされているため、尋問の場ではその中でも事案の判断に直結する重要な部分や、陳述書という書面ではなく口頭で本人の言葉として説明することが望ましい事項について、取捨選択して質問されます。

直接的な事実関係だけでなく、その周辺にある関連事情や供述の合理性を裏付ける補強事情を含めて質問されます。

2.弁護士と進める事前打合せの回数と陳述書を活用した準備

尋問に向けた準備の具体的な手順としては、代理人弁護士が中心となって質問事項を整理し、当事者や証人と事前に打合せを実施することが一般的です。事前打合せの回数については、事案の複雑さや当事者の状況によって異なりますが、通常は1回から2回程度で行われる場合が多いです。

当事者の場合、訴訟が進行する過程で弁護士との協議や打ち合わせをすでに数多く行っており、主張の全体像や争点を把握しているため、尋問の全体的な流れや手続上の注意点を説明するのみで準備が完了することもあります。もちろん、弁護士としては十分対応ができると考えていても、当事者としては初めての尋問手続きに対応するという不安もありますから、それらの事情から打合せを行うこともあります。

これに対して、証人として出頭を求められる第三者の場合、申請した側の証人であっても、事前に記載された陳述書の内容を確認する程度の短時間の打合せで済む場合もあれば、複雑な事実関係を正確に把握するために長時間をかけて複数回の聞き取りを実施しなければならない場合もあります。

尋問の準備においては、陳述書の内容や、陳述書を作成する際に行われたやり取りが重要な素材となります。弁護士は、提出済みの陳述書と訴訟上の争点を照らし合わせながら、法廷でどのような順序で何を語ってもらうべきかを検討し、主尋問の質問事項を組み立てます。当事者や証人は、自身の作成した陳述書を読み返すことで、過去の出来事や自らの主張内容を再確認し、尋問当日に向けた基礎的な記憶の整理を進めることになります。

3.相手方による反対尋問の予測と対処

尋問における反対尋問への対策は、主尋問の準備と比較して完全に予習し尽くすことが難しいという性質があります。相手方代理人は、事前に準備を行って法廷に臨みますが、実際の反対尋問では当日の主尋問におけるやり取りや発言のニュアンスを踏まえ、その場で即興的に質問を組み立てる部分が大きいためです。そのため、事前にどのような質問が投げかけられるかを完璧に予測することは不可能です。

しかしながら、不確実性がある反対尋問であっても、想定される質問の傾向や相手方が狙ってくるポイントをあらかじめ予測しておく作業は欠かせません。相手方が反対尋問で追及してくる部分は、客観的な証拠が存在しない事実や、当事者の供述に揺らぎが見られる部分、あるいは事案の結末を左右する重大な争点に集中します。

相手方としては、自らに有利な事実を話させようとしたり、主張の矛盾を指摘して供述の信用性を損なわせようと試みたりするためです。このような反対尋問に対してどのように回答すべきか、どのような意図で相手方がその質問をしてきているのかをあらかじめ想定しておくことで、不意の質問に対しても冷静に対応する準備ができます。

4.一問一答の丸暗記を避け当時の記憶の想起に努める

尋問の事前準備において、どの程度まで具体的に練習や確認を行うかは、事案の性質や弁護士の方針によって様々です。質問と回答の一問一答を細かく作成して練習する手法もあれば、陳述書の記載内容の確認や、事件当時の出来事を思い出すことに重点を置いた打合せを行う手法もあります。

どのような準備手法を採用するにせよ、共通して認識しておくべきことは、質問内容や陳述書の文章を丸暗記しようとする姿勢は望ましくないという点です。

法廷で求められていることは、用意された回答を正確に朗読することではありません。自身の記憶に基づいてありのままの事実を話すことにあります。発言内容を一言一句記憶しようとすると、法廷でわずかな表現の違いに気を取られたり、質問の意図から外れた想定問答の内容を話そうとしたりして、かえって不自然な供述になってしまう危険性があります。

陳述書にどのように記載したかを思い出せないのではないか、あるいは事前に聞いた質問事項を忘れてしまうのではないかと過剰に心配する必要はありません。裁判官も、当事者が流暢に暗記した文章を話すことは期待していません。暗記した表現を吐き出すのではなく、当時の体験の記憶を一つひとつ手繰り寄せながら自身の体験として真実を語っることが重要です。

したがって、準備段階で必要な作業は、文章の記憶ではなく、事件当時の状況や感情、周囲の情景を今一度頭の中で鮮明に思い出し、自身の記憶を整理することです。

5.法廷での緊張や言い淀みに対する裁判官の評価と弁護士としての見解

尋問の当日を迎えるにあたり、法廷という独特の厳粛な雰囲気に呑まれて緊張してしまうことを不安視する方は少なくありません。しかし、人生において何度も裁判の場に立つ経験を持つ人はごく稀であり、不慣れな法廷で緊張を覚えることは当然の心理状態です。裁判官もそのことは熟知しており、緊張によって声が震えたり、回答までに時間を要したりすること自体を理由に、供述の信用性を低く評価することはありません。

弁護士から見ても、むしろ整然としすぎた隙のない口述よりも、時折思い出しながら慎重に言葉を選ぶ姿の中にこそ、信用できる要素があるように思います。

裁判官や弁護士は、人の記憶は頼りない面があることを十分に理解しています。過去の出来事を思い出す際に沈黙が生じたり、言い淀んだりすることは、人間として自然な反応です。口から出る言葉や表現を気にするのではなく、質問の趣旨を正しく聴き取り、記憶している範囲の事実をありのままに述べることに集中すれば何ら問題ありません。

記憶が不確かな部分については曖昧に濁さず、覚えていない旨をはっきりと伝えることも大切です。尋問の準備とは、流暢な言葉を準備することではなく、ありのままの記憶を誠実に伝えるための状況を整えることです。

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