1.以前のトラブルで相手方に弁護士がついていた場合の連絡先の考え方
過去に何らかの紛争が存在し、相手方に弁護士が代理人としてついていて協議や訴訟を行っていた事案において、解決後に新たな問題が発生した場合や関連する確認事項が生じた際、連絡を相手方本人に行うべきか、それとも過去の代理人弁護士に行うべきか迷うことがあります。
相手方に代理人弁護士が就任している場合、当事者間で直接交渉を行うことは避け、原則としてすべて代理人弁護士を経由して連絡を取り合うのが通常です。これは、代理人弁護士を通じて交渉を行うことで感情的な対立を防ぎ、法的な観点から整理された協議を円滑に進めるためです。
しかし、その代理権が現在も存続しているか否かという点は、外部から容易に判断できないことが多くあります。弁護士は依頼者との間において締結される委任契約に基づき、特定の法律事務を処理する代理権を与えられます(民法第643条)。
そのため、過去のトラブルについての示談が成立したり、裁判上の和解や判決が確定して予定されていた手続がすべて完了した場合には、原則として委任契約は終了し、代理権も消滅します(民法第653条)。代理権が消滅している状態であれば、本来は相手方本人とやり取りを行うことが妥当となりますが、相手方が将来生じる可能性のある紛争についても継続的に一括して代理権を与えている可能性も排除できません。
当事者以外の立場から、相手方と過去の代理人弁護士との間の委任関係の有無や範囲を正確に把握することは困難です。委任関係がすでに終了しているにもかかわらず過去の弁護士に連絡をし続けると、回答が得られず手続きが滞る原因となります。一方で、代理権が存続しているにもかかわらず相手方本人へ直接連絡を試みると、相手方から不当な接触や嫌がらせであると主張され、新たなトラブルを引き起こすおそれがあります。
したがって、連絡先を判断するにあたっては、過去の手続の終了状況や受任範囲の性質を見極めることが必要になることがあります。
2.交渉・調停・訴訟など手続の段階ごとに変化する弁護士の受任範囲
ひとつのトラブルから派生する一連の事象であっても、弁護士が引き受ける代理業務の範囲は手続きの段階ごとに明確に分かれていることが通例です。トラブル解決に向けた主な段階としては、当事者間での直接交渉を行う交渉の段階、第三者を交えて話し合う民事調停の段階(民事調停法第1条)、民事訴訟の段階(民事訴訟法第54条)、そして確定した判決などに基づき財産を差し押さえる強制執行の段階(民事執行法第1条)が存在しますが、これらは法的にはそれぞれ独立した手続となります。
一般論として、同一のトラブルに関して交渉を担当していた代理人弁護士がいる場合、その後調停や訴訟へ移行した際にも引き続き受任して手続きを担当することが多いです。しかし、これは自動的に代理権が拡大されるわけではありません。弁護士は手続が次の段階へ進むごとに、依頼者との間で、必要に応じて新たな手続についての委任契約を結び、改めて委任を受けることになります。そのため、交渉段階では弁護士がついていたものの、訴訟へ移行する段階では本人が自ら裁判に対応する形態へ変わることもあり得ます。
調停や裁判など、裁判所が関与する手続においては、代理権の有無を確認することは比較的容易です。弁護士が調停や訴訟の代理人に就任した場合は、裁判所に委任状を提出して手続きを行うため、訴訟記録の閲覧や裁判所からの連絡を通じて代理権の有無を把握できます。
問題となりやすいのは、訴訟が終了した後の支払いや履行の段階です。判決や確定和解成立後の履行確認まで弁護士が受任している場合もあれば、判決確定をもって委任関係が終了し、その後の金銭の支払いや受け渡しは当事者本人同士で行う契約になっている場合もあります。どちらの運用がなされているかは外観だけでは判断がつきません。
3.前件終了後や別件トラブルが発生した際における連絡先
以前の紛争が完了した後に、完全に別の原因によって発生したトラブルや、前件に関連して新しく生じた紛争について相手方に連絡を取る必要がある場合は、対象となる事項の性質に応じて連絡先を選択することが適切です。
相手方に代理人弁護士が存続しているかどうかの確認を怠り、誤った相手へ連絡を取った場合、解決の遅延にとどまらず新たな法的トラブルや感情的な不利益を被るリスクが発生します。
まだ代理権が存続している代理人弁護士が存在するにもかかわらず、相手方本人へ直接電話をかけたり、自宅や職場へ書面を送付したりする行為は、不当な交渉として強い反発を招くおそれがあります。相手方から「弁護士を回避して本人を脅迫・威惑しようとしている」と捉えられ、対立が激化して話し合いによる解決が困難になる恐れがあります。
(1) 全くの別件の場合
前件とは全く異なる性質の紛争が発生した場合、相手方本人が以前と同じ弁護士に再度依頼するかどうかは不確定です。したがって、新たなトラブルについては代理人がついていない状態からスタートするのが原則であり、初期段階においては相手方本人宛てに連絡を行うことが基本的な対応です。
(2) 以前の案件と関連する場合
これに対して、以前の示談条項や判決内容の履行に関する問合せ、あるいは前件の紛争から直接派生した解釈の相違など、過去の案件と密接に関連している問題である場合は事情が変わってきます。この場合は、いきなり相手方本人へ直接連絡を入れるのではなく、まず前件で代理人を務めていた弁護士へ連絡を行う方法が安全です。過去に窓口となっていた弁護士宛てに、今回の事項について現在も代理権を有しているか、あるいは窓口として対応可能であるかを問い合わせることになります。
過去の代理人弁護士に問い合わせを行った結果、弁護士側から「該当する事項についても引き続き受任している」との回答が得られれば、そのままその弁護士を窓口として協議を継続することになります。他方で、弁護士から「前件の終了に伴い委任関係は終了しているため、今後は本人と直接やり取りをしてほしい」又は「お答えすることができない」という旨の回答を受けた場合には、相手方本人への直接連絡へと切り替えることになります。
このプロセスを経ることで、相手方本人との不要な摩擦を回避しつつ、適切な連絡窓口を確定させることが可能となります。
