裁判上の和解内容における法的限界と実務対応|判決との違いや裁判官による文言修正の真意

1.裁判上の和解が持つ法的な性質と判決との違い

民事訴訟の過程において裁判所から和解を打診された際、その内容を当事者間でどこまで自由に決定できるのかという問題があります。和解という行為自体は、当事者が互いに譲歩をして紛争を終結させることを約する民法上の契約としての性質を持っています(民法第695条)。しかし、これが裁判所の関与のもとで行われる訴訟上の和解となる場合、単なる私人間での合意にとどまらず、訴訟法上の効果を併せ持つ特別な性質を併有します。

民事訴訟法

(和解等に係る電子調書の効力)
第二百六十七条 裁判所書記官が、和解又は請求の放棄若しくは認諾について電子調書を作成し、これをファイルに記録したときは、その記録は、確定判決と同一の効力を有する。
2 前項の規定によりファイルに記録された電子調書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、第二百五十五条第二項の規定を準用する。

(1) 判決との共通点

訴訟は、この訴訟上の和解が成立することによって判決を待たずに終了することになります。判決との共通点として挙げられるのが、和解が成立して調書に記載された場合には確定判決と同一の効力を有する点です(民事訴訟法第267条)。

つまり、和解調書は判決書と同様に債務名義となり、仮に相手方が約束した金銭の支払いや義務の履行を怠った場合には、改めて裁判を起こすことなく、即座に財産の差し押さえなどの強制執行手続きへと移行することができます(民事執行法第22条第7号)。

(2) 判決との違い

一方で、判決との違いは、結論に至るプロセスとその内容を誰が決定するのかという点です。判決においては、当事者の意思にかかわらず、裁判官が提出された証拠や双方の主張を評価検討し、強制的に勝敗や給付の内容を決定します。

これに対して訴訟上の和解は、あくまで当事者双方の主体的な合意が存在することを前提としています。どれほど裁判官が和解による解決を強く勧めてきたとしても、当事者の一方がその条件を拒絶すれば、和解が成立することはありません。

2.和解条項が成立する具体的な手続きと裁判官が文言に関与する背景

実際の民事訴訟において、和解がどのように成立していくのかという具体的な流れを把握することは、手続きに対する不必要な不信感を和らげるために重要です。

一般的な契約であれば、当事者双方が合意に達した段階で自ら契約書を作成し、互いに署名捺印を行うことで契約が成立します。これに対して裁判上の和解は、当事者が作成した書面を交わすのではなく、裁判所の期日において裁判官が当事者双方に対して和解案を受け入れる意思があるかどうかを直接口頭で確認する形で進められます。

当事者双方が和解内容に同意した旨を陳述すると、その合意内容は裁判所の書記官によって和解調書に記録されます(民事訴訟法第160条第1項)。現在では、裁判手続きのデジタル化に伴い、これらの記録が電磁的記録による電子調書として作成されます。

最終的な和解の文言は、当事者が事前に協議して提出した和解条項案を基にする場合が多いですが、形式的には裁判所が作成する公文書として記録されることになります。そのため、合意の基礎となる実質的な内容は当事者間のものであったとしても、最終的な文言を確定して公的な記録に残す段階においては、裁判官が関与する余地が当然に生じます。

裁判官が当事者間に対して、条項の一字一句や表現のニュアンスを細かく確認するのは、当事者双方の意思確認も当然ですが、調書に残すにふさわしい内容であるかをも確認するためです。

3.裁判官から和解内容の修正を求められる理由

当事者双方が完全に合意し、納得している内容であるにもかかわらず、裁判官からその文言を修正するよう求められる場面があります。

せっかく苦労して双方が妥協点を見つけ、話し合いがまとまった段階で裁判所から文言の変更を促されると、当事者としては戸惑いを感じるものですが、裁判官が行う指摘には明確に法的な合理性があります。

(1) 公序良俗に反する場合

一つは、合意された内容が公序良俗に違反し、法的に無効となる恐れがある場合です(民法第90条)。例えば、損害賠償の事案において、一般的な社会通念を著しく逸脱した過大な違約金を定めたり、個人の基本的人権を不当に制限したりするような内容は、当事者がどれほど強く望んでいたとしても、公の機関である裁判所がその内容を和解調書に記載して保護することはできません。

(2) 表現が曖昧な場合

ふたつ目は、対象物や履行条件が曖昧であり、文意を明確に特定できない内容になっている場合です。例えば、極端に言えば、「適切な時期に相当額を支払う」や「所有する一部の土地を引き渡す」といった不明瞭な条項や、「適切な配慮をする」といった法的な評価が難しい条項は、強制執行の際に執行機関が具体的な給付内容を特定できないために実質的な執行力はなく、将来的な紛争を再び誘発する原因となります。

このような曖昧な文言に対して裁判官が修正を求め、具体的な特定を試みた結果として当事者双方が納得できずに決裂してしまうのであれば、それはそもそも双方の根本的な意思が合致していなかったという事実を示しているに過ぎません。

(3) 法的意義に乏しい場合

三つ目の理由は、「誠意をもって対応する」や「別途協議して決定する」といった文言が含まれている場合です。このような文言について裁判官が記載を避けたがるのは、表現が曖昧だからではなく、法的な意味を持たないからです。

これらの条項は具体的な給付内容を伴わないため、記載する意義に乏しい、紛争が解決していないニュアンスがある、あらぬ期待を抱かせる可能性があるなどとして、記載から外す提案がされることもあります。

当事者の感情的な整理のためにあえて記載されることもありますが、裁判官としては法的な効力のない文言を判決と同等の効力を持つ調書に記載することには消極的なことがあります。

4.裁判上の合意に盛り込めない条項を裁判外の契約で補完する実務対応

裁判官からの法的な指摘を受け、和解調書という公的な書面に記載することが適当ではないと判断された内容であっても、当事者双方が真摯にその内容を約束したいと強く求める場合があります。訴訟の直接的な争点からは外れるものの、当事者間の感情的な和解のために不可欠な私的約束事や、裁判所が記録を残すことを躊躇するような特殊な性質を持つ条件などがこれに該当します。

このような状況に直面した場合、すべての合意事項を無理に裁判上の和解調書に詰め込む必要はありません。裁判上の和解とは切り離し、裁判外において通常の民法上の契約として合意書を作成するという実務的な対応手段が存在します(民法第521条第1項)。

これは、裁判所に対しては裁判官が認める適正かつ明確な文言のみを提示して和解を成立させて訴訟を終了させ、その一方で、和解調書に記載できなかった詳細な条件や特殊な約束事については、当事者間で別途契約書を取り交わすという手法です。この裁判外の合意について、裁判官にその存在を報告すべきかどうかという疑問が生じますが、報告するかどうかは完全に当事者の裁量に委ねられています。

仮に裁判官にその旨を伝えたとしても、裁判所としては事情として認識するにとどまり、当事者間の契約自由の原則に基づき、裁判外の私的な契約内容にまで介入して制限を加えるようなことはありません。

ただし、この実務対応を選択するにあたっては、裁判外で締結された合意書には、和解調書のような確定判決と同一の効力、すなわち即座に強制執行を申し立てることができる強力な効力は付与されないという点は忘れてはなりません。万が一、裁判外の契約内容が破られた場合には、その合意書の不履行を理由として、改めて民事訴訟を提起することを検討することになります。

5.和解期日を迎える当事者が初期対応として理解すべき意思決定の基準

金銭トラブルや不動産紛争などの民事トラブルの当事者となり、裁判所から和解の提案を受けた方は、重大な決断を迫られることになります。判決による法的な決着を求めるべきか、あるいは互いに譲歩して和解による早期解決を選ぶべきかという選択は、その後の経済的な状況や日常生活に重大な影響を及ぼします。判決は自らできるかぎりの主張立証を行った結果として得られますが、和解は自らの意思で合意をすることになるため、判決へ向けた訴訟活動とは別種の決断を必要とします。

このような局面において、理解しておくべきなのは、提示された和解条項が「将来にわたって確実に履行可能であり、かつ予測可能な範囲で紛争を完全に解決できる内容になっているか」どうかです。裁判手続きの長期化による疲弊から逃れたい、あるいは目先の争いを一刻も早く終わらせたいという一時的な感情に流され、実現可能性の低い金銭の支払いを約束したり、自らにとって過度に不利な義務を受け入れたりすることは、後に深い後悔を引き起こすことになります。

裁判官から提示される和解の方向性や、相手方から示される妥協案に対しては、一時的な感情的反発や過度な期待を排除し、その条項がもたらす内容と、判決まで進んだ場合に生じる勝敗の不確実なリスクを冷静に天秤にかけなければなりません。

一度成立して調書に記載された裁判上の和解は、事後的に内容が不満であるという理由で一方的に取り消すことや変更することが原則として認められません。判決のように、上訴をすることもできません。裁判上の和解を成立させることは、自らの意思と責任において、当該紛争に決着をつける行為になります。

勝訴の見込みがあっても和解する意義|判決の限界とトラブル解決の選択
1.裁判における「和解」の本質 民事訴訟などの手続きにおいて、最終的な裁判官の判断(判決)を待たずに、当事者双方が合意によって争いを終わらせる手続きに和解があり…
ohj.jp