1.裁判所が提供する書式の法的性質と記載枠に収まらない場合の対処法
民事訴訟や家事調停などの手続きを自身で進めようとする際、多くの人が最初に手にするのが、裁判所のウェブサイトや窓口で配布されている各種の書式です。訴状や答弁書、あるいは調停申立書などには、あらかじめ項目や記入枠が印刷されており、一見するとその枠内に指定された通りに書き込まなければならないように感じられます。
しかし、これらの書式は、法律によって使用が義務付けられているものではありません。民事訴訟において、訴状に記載すべき必要事項は定められていますが(民事訴訟法第133条)、特定の用紙や書式を使用しなければならないという規定は存在しないのです。
裁判所が用意している書式は、法律の専門知識を持たない一般の当事者が、手続きを迷わずに進められるように、裁判所が便宜上作成した記載例やひな形に過ぎません。そのため、用意された記入枠が狭すぎて自身の主張したい事実を書き切れない場合や、印刷されている質問項目が自身の直面している事案の実態と合致しないのであれば、無理にその枠内に内容を押し込める必要はありません。
書式の記入欄に「別紙の通り」と記載した上で、別途作成した用紙をホチキスなどで綴じて添付する方法は何ら問題ありません。書式の枠に縛られるあまり、伝えるべき重要な事実や法的な主張を省略してしまったり、小さな字で無理して書かれている方もおられますが、裁判の結果に望ましくない影響を及ぼすおそれもあり、そのような無理をされる必要はありません。
2.訴訟提起や調停申立てにおける定型事案と非定型事案での書式使い分け
裁判所の書式は強制力を持たない一方で、使用を避けるべきというわけでもありません。事案の性質に応じて、書式を積極的に活用すべき場合と、独自の書面をゼロから作成すべき場合を使い分けることが有益です。
例えば、相続放棄の申述や、典型的な離婚調停、遺産分割調停の申立てなど、請求の内容や法的に判断される要素が極めて定型化されている事案においては、裁判所の書式を使用することに利点があります。これらの定型的な事案では、書式に沿って必要事項を埋めていくだけで、法律上欠かせない記載事項の漏れを物理的に防ぐことができます。
また、日々膨大な数の事件を取り扱う裁判所の書記官や裁判官にとっても、標準的な書式で整理された書面は、情報の確認が容易であり、審理の準備や事務処理が円滑に進むという側面があります。
これに対して、貸金返還請求であっても、複数回の貸付や弁済が繰り返されていたり、複雑な合意が存在する場合や、不貞行為に基づく慰謝料請求で経緯が長期にわたり複雑化している場合などの非定型的な事案では、最初から裁判所の書式を使わずに、一般的な横書きの書面として訴状や申立書を作成する方が適切です。主張の構成や証拠との整合性を分かりやすく示すためには、定型の枠に収まらない記載が必要となるためです。
3.突然訴状が届いた被告が直面する答弁書作成
裁判は自身が自発的に起こす場合だけでなく、ある日突然、裁判所から特別送達という郵便で訴状が届けられ、被告という立場に置かれる場合もあります。このような場合にも、送達された封筒の中に答弁書の書式が同封されています。
この同封されている答弁書の書式は、原告の請求に対する認否や自身の反論を極めて簡潔に記載するように設計されており、書き込みができるスペースは非常に限定されています。しかし、自分の詳細な言い分を書き切れないからといって、書く量を限定したり、回答を先送りにすることは極めて危険です。
同封された書式のスペースに悩むことなく、主張すべきと考えたことは、書面に記載して提出する必要があります。記載内容が不十分であったり、提出自体をしなかったことにより、争っていない、原告の主張を争っていると判断されることを最も避けなければなりません。
極論、形式的な不備については、何とでもなります。
便箋に書きなぐって裁判所に送られた書面について、裁判官が、準備書面(あるいは答弁書)として扱うというケースに遭遇したこともあります。書くべきだと考えたことは、形式にこだわらずに書いて提出するべきです。
4. 民事訴訟法の改正による電子情報処理組織の利用
なお、弁護士が代理人として活動する場合においては、電子情報処理組織の利用が義務付けられました(民事訴訟法第132条の11)。いわゆる、オンラインのシステムにて、訴状の提出などを行うようになります。
このシステムは、一般の方でも利用することが可能です。システムでは、文字数などに一部制限がありますが、これもシステム上の制限に過ぎません。申立て内容をについて制限を行うものではありません。
そのため、もし文字数制限などにより記載が難しい場合は、指示に従いPDFで別途提出したり、対応方法が不明であれば、裁判所に相談するなどして、提出する方法を確認すべきです。
形式面やシステムの制約により、主張すべきことを主張できなかったり、提出すべき証拠を提出しなかったとしても、裁判所は救済してくれません。形式やシステムに合わせて文字数を減らしたり内容を省いたりすると考えるのではなく、どのように提出すればよいかと考える必要があります。
