民事訴訟の提起から訴状送達まで|裁判の開始時期と審理期間

1.民事訴訟の提起から始まる訴状の形式審査と補正手続き

訴えを提起する際、裁判所の受付窓口に訴状を提出することからすべてが始まります(弁護士が訴訟提起する場合は電子情報処理組織を使用した申請になります。)。しかし、訴状を提出したからといって、その内容が即座に相手方に転送されるわけではありません。

裁判所は、訴状を受理するとまず形式的な審査を行います。この審査は、原告が主張する請求内容が法律上正しいかどうか、あるいは提出された証拠によってその事実が認められるかといった、事案の実体面に関する判断を行うものではありません(民事訴訟法第137条)。そもそも訴状を提出する段階では、すべての証拠を揃えて提出する義務は課されておらず、あくまで主張の骨子を提示するにとどまります。審査の対象となるのは、法律上記載すべきとされている事項が漏れなく網羅されているかという形式面です。

具体的には、原告と被告の氏名や住所、法定代理人の有無、請求の趣旨、そして請求の根拠となる原因が明示されているかといった点です。さらに、請求の基礎となる金額、すなわち訴訟の目的の価額に応じた適切な額の収入印紙が正しく貼付されているか、郵便料としての予納郵券が不足していないかといった点も、民事訴訟費用等に関する法律に基づき確認されます。

この段階で記載漏れや計算違い、添付書類の不足などの問題があると判断された場合、裁判長から期間を定めて補正を求められます。実務上は、訴状補正申立書や、不備を補った内容を記載した準備書面などの形で補正内容を記載した書面を提出することになります。

もし、裁判長が指定した相当の期間内にこの補正命令に従わない場合には、訴状却下命令が出され、訴え自体が門前払いをされてしまうことになります。却下されてしまうと、再度訴えを提起し直さなければならなりません。

2.第一回口頭弁論期日の指定基準と擬制陳述を考慮した実務上の調整期間

訴状の形式面に不備がないと判断されるか、あるいは求められた補正が適切に行われれば、次の段階として裁判所と原告との間で第一回口頭弁論期日の指定に向けた調整が行われます。補正が必要なかった場合などには、訴状提出から一週間程度でこの日程調整が進められます。

法律上の原則として、第一回口頭弁論の期日は、特別な事由がある場合を除いて、訴えが提起された日から三十日以内の日に指定しなければならないと定められています(民事訴訟規則第60条)。しかし、実際の裁判実務において、訴状を提出してから一ヶ月以内に実際の審理が始まることはほとんどありません。なぜなら、被告に訴状が届いてから、相手方がその内容を精査し、反論を準備するための十分な時間を与えずに期日を指定しても、相手方が出席できずに期日が空転する可能性が高いためです。

第一回口頭弁論期日に限っては、被告側は事前に答弁書を提出しておけば、当日に裁判所へ出頭しなくても、その答弁書に記載した内容を陳述したものとみなされる擬制陳述が認められています(民事訴訟法第158条)。この制度はあるものの、被告が答弁書を作成する時間は必要ですので、裁判所は被告に訴状が到達する前後から概ね一ヶ月後ぐらいの日程を期日として指定することが多いです。

前述したように訴状の不備に起因する補正に時間を要したときは、それだけ期日の指定自体が後日になります。結果として、訴状を提出してから第一回口頭弁論期日が実際に開かれるのは、訴状が提出されてから全体で一ヶ月、あるいは二ヶ月というような日程になることが一般的です。

3.訴状送達の仕組みと相手方が受け取らない場合の特殊な送達手続き

このように、訴状を提出した瞬間にその事実が相手方に通知される仕組みにはなっていないため、原告が裁判を起こしたことを被告が知るまでには必ず一定の時間的な猶予が生じます。原告側としては、裁判を起こせば即座に相手方に伝わり、何らかのリアクションがあると考えるかもしれませんが、実際には裁判所の審査と送達手続きが完了するまでは、相手方は訴訟の存在を全く知りません。

裁判所から相手方への訴状の送達は、書記官が特別送達という特殊な郵便手続きを用いて行うため、郵便の往復や相手方の在宅状況によっても日数が変動します。そのため、訴状を提出してから被告に訴状が送達されるまでには、どれほど手続きが円滑に進んだ場合であっても、早くても二週間ほどはかかります。

なお、訴状を提出した直後に、感情に任せて相手方に直接「裁判を起こした」といった連絡を入れるような行為は、望ましくありません。事前の交渉があれば、自然に訴訟を提起することは伝わっていることが多いですし、交渉がない場合に、相手が確認していない状況で突然訴訟提起の事実を連絡することは、不必要な感情の対立を招くおそれがあります。

訴訟を提起した以上は、すべてのプロセスを裁判所の手続きに委ねることが賢明であり、自ら進んで相手方に接触を試みることは避け、手続きの進行を見守る姿勢が望ましいです。

4.審理が長期化する構造的要因と強制執行を見据えた判断の慎重性

自分の有する権利や主張が客観的に見てどれほど間違いないものであり、裁判をすればすぐに決着がつくと確信していても、実際の裁判において早期の解決という期待には添えない場合が多いのが現実です。

裁判は、国家機関である裁判所が、双方の言い分を聞いた上で最終的な法的判断を下す極めて重い手続きです。その結果として言い渡される判決には、相手方が任意の支払いや義務の履行に応じない場合に、その財産を国家権力により強制的に差し押さえることができるという、強力な執行力が認められています(民事執行法第22条)。

このように、個人の財産や権利に対して重大な不利益を強制的に及ぼすことができる手続きであるからこそ、迅速性よりも慎重さと適正性が優先されます。裁判官が誤りのない判断を下すためには、原告と被告の双方が提出する主張や証拠を徹底的に精査する必要があり、どうしても相応の時間を要することになります。

第一回口頭弁論期日が終わった後も、通常は一ヶ月から一ヶ月半に一度の頻度で続行期日が指定され、原告と被告が交互に準備書面を提出して反論を繰り返します。また、裁判の途中で裁判官から和解の勧試がなされることも多く(民事訴訟法第89条)、この和解交渉を行う場合にも一定の期間が必要となります。

お互いの主張が出尽くした後に、ようやく証人尋問や当事者尋問が行われ、最終的な判決に至るため、どれほどスムーズに進んだとしても半年から一年、複雑な事案や対立が激しい事案であれば数年に及ぶことも珍しくありません。審理の長期化は制度の慎重さの裏返しであることは知っておくと良いです。

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