性行為の対価として受け取ったお金は返済不要か|不法原因給付による返還請求の拒絶

1.「不法原因給付」とは何か?公序良俗に反する契約と返還請求の禁止

民法708条には「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」という規定があります。これが「不法原因給付」と呼ばれるルールです。

通常、契約が公序良俗に反して無効であれば、契約は巻き戻りますから、受け取った側はそのお金を返さなければならない(不当利得返還義務)のが原則です。しかし、そもそも「不法な目的」でお金を渡した人に対してまで、法律が手を差し伸べて返還(巻き戻り)を助けるのはおかしい、というのがこのルールの考え方です。「クリーンハンズの原則」とも呼ばれ、汚れた手で裁判所に助けを求めることは許されないということです。

男女関係においてこのルールが適用される典型例は、いわゆる「愛人契約」や、それに類する愛人関係を維持するための金銭の授受です。愛人関係の維持を目的とした契約は公序良俗に反し無効とされますが、そのために支払われたお金は「不法原因給付」に該当するため、支払った側からの返還請求は認められないということになります。

2.どのような金銭が「不法な原因」にあたるのか?

不法原因給付が成立するためには、その給付が「公序良俗に反する行為」に関連している必要があります。

例えば、単純な交際相手へのプレゼントや、生活費の援助などは、それ自体が直ちに不法なものではありません。しかし、性交の対価として金銭を受け取った場合、その動機や目的が社会通念上許されない(公序良俗違反)と判断されれば、不法原因給付に該当する可能性が高まります。

特に「愛人契約」という形で書面を交わしていたり、毎月の手当が愛人としての義務(性的関係の維持など)と密接に結びついていたりする場合、後から「関係が切れたから返せ」と訴えても、不法原因給付と解されるのが一般的です。

3.「騙された」と主張された場合の対処と返還義務の有無

男性側から「独身だと言っていたのに既婚者だった」「結婚するつもりだと言ったのに嘘だった」として、詐欺を理由に返還を求められるケースがあります。確かに、詐欺によってお金を渡した場合は、原則として返還請求が可能です。

しかし、不法原因給付のルールにはもう一つの側面があります。それは、給付を受けた側(女性側)にも不法な点があったとしても、給付をした側(男性側)の不法性がさらに大きい場合には、返還を拒めない場合があるという点です。とはいえ、男女関係における金銭授受において、男性側が「自分は被害者だ」と主張して返還を勝ち取るのは、法的にはハードルが高いのが現実です。

男性が既婚者であることを隠して独身女性に近づき、結婚を餌に関係を強いたような極端なケース(貞操権侵害)であれば話は別ですが、互いに不倫であることを承知していたり、金銭のやり取りを伴う自由な男女関係であったりする場合、男性側の「騙された」という主張は、不法原因給付の壁を乗り越えるほど強力なものとはみなされにくい傾向にあります。

4.脅迫や執拗な督促を受けた場合の法的保護と実務的対応

しかしながら、交際関係に関する金銭の返還を求めた者は、不法原因給付だからと言われたところで、素直に引き下がらないことも間々あります。返還を拒否し続けると、相手が感情的になり、職場に連絡する、親族にバラす、SNSで暴露するといった脅しをかけてくることがあります。これはプライバシー侵害や名誉毀損になり得る明らかに不当な行為です。

まず、不当な返還請求に対しては「法的に支払う義務がない」という意思表示を明確に行うことが重要です。その上で、もし相手が執拗に連絡を繰り返したり、危害を加えるような告知をしたりする場合は、警察への相談や、弁護士を通じた受任通知の送付を検討する必要があります。お金を受け取った側としては、申し訳なく思って返そうとされることもありますが、まずは法律上は返還義務がないということは押さえておくべきです。