1.消費生活センターの機能と提供される助言の範囲
予期せぬ消費者トラブルに巻き込まれ、悪質な事業者から不当な高額請求を受けたり、説明と大きく異なる商品を買わされたりした際、消費生活センターは、無料で相談に応じ、客観的な視点から問題解決に向けた指針を提供してくれる重要な拠点となります。
全国の各都道府県や市区町村に設置されている消費生活センターには、消費者問題の動向や関連法令に精通した専門の相談員が配置されており、相談者が抱える事案の詳細な経緯や被害の実態を丁寧に聞き取ります。その上で、適用される可能性のある法律を横断的に精査し、特定商取引法に基づくクーリング・オフが可能であるか(特定商取引法第9条)、あるいは消費者契約法に照らして事業者の不当な勧誘行為を理由に契約の取消しや無効を主張できるか(消費者契約法第4条)といった、具体的な法解釈に基づくアドバイスを受けることができます。
法的知識が必ずしも十分ではない一般の消費者にとって、ご自身の置かれた状況を法的に整理し、今後事業者にどのような書面を送付して権利を主張すべきかという実践的な手立てを知ることができる点は、消費生活センターを利用する極めて大きな利点です。
2.事業者との話し合いを調整する機能と代理交渉権限を持たないことの限界
消費生活センターが提供する支援の中で、法的な助言と並んで重要な役割を担うのが、相談者と事業者との間に入って話し合いを促し、妥協点を探る「あっせん」という手続きです。事業者が消費者個人の直接的な申し出に対しては誠実な対応をとらない場合であっても、公的な相談機関が間に入って問題点を指摘することによって態度を軟化させ、返金や契約解除などの合意に応じる事例は少なからず存在します。
しかしながら、このあっせん機能には法的な性質上の明確な限界があります。消費生活センターの相談員は、あくまで中立的な立場で双方の主張を調整する役割を担うにとどまり、弁護士のように相談者の代理人となって具体的な交渉を直接引き受け、相談者に代わって法的な権利を行使することはできません(弁護士法第72条)。
したがって、事業者に対するあっせんは任意の協力を求める手続きに留まります。悪質な手口を用いる事業者の中には、消費生活センターからの電話連絡を無視したり、対話を先延ばしにしたり、あるいは最初から話し合いのテーブルにつくこと自体を拒絶したりする場合がいます。
そのような強硬な態度をとられた場合には、消費生活センターとしてもあっせんをそれ以上進めることができなくなります。あっせんが不調に終わった場合や事業者が非協力的な態度を貫いた場合には、最終的に相談者ご自身で直接事業者に立ち向かい、対応を継続しなければならないという実情があります。
3.被害情報の集約機関としての意義と警察や行政による捜査等への波及効果
万が一、事業者との交渉が決裂し、個別のトラブル解決という観点では消費生活センターのあっせんが功を奏しなかったとしても、相談を行ったこと自体が徒労に終わるわけではありません。なぜなら、消費生活センターは個別の相談解決にとどまらず、社会全体に蔓延する消費者被害の情報を収集し、被害の拡大を未然に防止する公的な集約機関としての役割を担っているからです。
全国の消費生活センターに寄せられた苦情や相談は蓄積され、どのような名称の事業者が、どのような手口を用いて、どの程度の被害を発生させているかという実態が国や自治体で共有されることになります。この情報集約機能は、個々の事案に対応する弁護士には難しい事柄です。
そして、共有された内容により、行政機関が特定商取引法違反に基づく業務停止命令などの行政処分を下す際の資料として活用されます。さらに、警察などの捜査機関にとっても極めて有益な情報源となります。
実際に、組織的かつ多発する詐欺事件や悪徳商法の捜査において、警察が消費生活センターに対して被害相談の件数や背後関係の傾向を照会し、詐欺罪等での立件に向けた重要な端緒としたり、裁判での立証資料として活用することは珍しくありません。
したがって、たとえ事業者から被害金を直接取り戻すことが困難な状況に直面したとしても、ご自身の被害経験を消費生活センターに正確に報告することは、同種の被害に遭う方を一人でも減らし、悪質な事業者を社会から排除するための公益的な活動に直接貢献しているという大きな意味を持ちます。
4.少額の被害や費用倒れが懸念される事案における消費者センターの価値
消費者トラブルの中には、被害額が数万円から十数万円程度にとどまる事案も多く見受けられます。このような比較的少額の被害において本格的な法的手続きへの移行を検討する場合、相談者はしばしば「費用倒れ」というジレンマに直面することになります。
裁判所に訴訟を提起するためには手数料などの実費が必要となるほか、弁護士に手続きを依頼する場合には着手金や報酬といったまとまった費用が発生します。結果として、時間と労力をかけて事業者に全額を返金させることに成功したとしても、最終的に手元に残る金額よりも費やした手続き費用の方が上回ってしまうという事態が生じ得るのです。
純粋な経済的合理性のみを追求すれば、泣き寝入りせざるを得ないのではないかという事態が生じることは否定できません。こうした場合にこそ、費用がかからない消費生活センターの相談およびあっせん機能が高い価値を発揮します。
まずは専門知識を有する公的機関の助力を得て、事業者との任意交渉による解決の道を探ることは、無用な経済的リスクを回避する観点から非常に理にかなった選択と言えます。
5.事業者との交渉が決裂した際の対応
消費生活センターを通じたあっせんによる解決が困難となり、事業者側が強硬に返金や解約を拒絶している場合、相談者は今後の対応方針について決断が必要になります。
そのまま諦めるか、あるいはご自身で引き続き交渉を行うか、さらに踏み込んで強制力を伴う法的な解決手段に訴えるかを判断しなければなりません。
ご自身の手間や時間、及び必要となる費用などを考慮し、次の一手を考えていく必要があります。
