民事訴訟における求釈明の活用法|相手方の主張不明瞭に対する主張立証の進め方

2026年9月14日

1.裁判官の釈明権の行使としての「求釈明」

民事訴訟の手続きが進行する中で、相手方から提出された準備書面や主張の内容が分かりにくく、対応に苦慮する場面は少なくありません。そうした際、裁判所を通じて相手方に主張の意図や具体的な事実関係を正す手段として「求釈明」という言葉が意識されます。しかし、求釈明を理解するためには、まず民事訴訟法における裁判官の権限と当事者の立ち位置を明確に区別しておく必要があります。

民事訴訟手続きでは、当事者が主張や証拠の提出を行い、裁判所がそれに基づいて審理を進める当事者主義及び弁論主義が採用されています。この構造のもとで、事案の解明を円滑に進めるために裁判長に与えられている権限が「釈明権」です。裁判長は、当事者の主張が不明瞭であったり、立証が不十分であったりする場合に、事実上および法律上の事項に関し、当事者に質問を発し、または立証を促すことができます(民事訴訟法第149条第1項)。

一方で、当事者が裁判所に対して「相手方に真意を質してほしい」「主張の根拠となる事実を説明させてほしい」「主張を明確にしてほしい」と求める行為が、「求釈明」と呼ばれる場合があります(民事訴訟法第149条第3項)。注意すべき点は、当事者が相手方に対して直接釈明を命じる権限を持っているわけではないということです。

当事者のこの行為は、裁判長に対して「釈明権を行使してください」と促す申立てに過ぎません。したがって、その申立てを受けて実際に相手方に釈明を求めるかどうかは、あくまで裁判長の裁量に委ねられています。裁判長が審理の進行上、釈明を行わせる必要がないと判断した場合には、求釈明を行っても採用されない場合があります。

用語について整理すれば、求釈明とは、釈明を求めるという行為であり、本来は裁判長による釈明権の行使そのものを指すはずです。当事者の申立ては、いわば求・求釈明とされるべきものです。いわば、裁判長に対して、審理に資すると考える提案をする行為であって、そもそもが相手方に対する行為ではないのです。

民事訴訟法

(釈明権等)
第百四十九条 裁判長は、口頭弁論の期日又は期日外において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すことができる。
2 陪席裁判官は、裁判長に告げて、前項に規定する処置をすることができる。
3 当事者は、口頭弁論の期日又は期日外において、裁判長に対して必要な発問を求めることができる。
4 裁判長又は陪席裁判官が、口頭弁論の期日外において、攻撃又は防御の方法に重要な変更を生じ得る事項について第一項又は第二項の規定による処置をしたときは、その内容を相手方に通知しなければならない。

2.裁判官の「求釈明」が奏功する具体的な場面

裁判官の行う求釈明が本来の役割を果たし、有効に機能するのは、相手方が既に提出した主張の意図や事実関係が曖昧であり、認否や反論を行う前提が整っていない場合です。民事訴訟においては、相手方の主張を認めるのか、争うのかという明確な認否を行わなければなりません。しかし、主張そのものが不鮮明であると、認否の判断すら困難になります。

例えば、損害賠償を請求する訴訟において、相手方が請求する金額の算定根拠や内訳を一切明記していない事案が挙げられます。また、契約の成立や解除を主張していながら、その日付や意思表示の具体的な態様が特定されていない事案も存在します。このような場合、主張の根拠となる事実関係を特定させなければ、適切な反論を提出することができません。そこで、裁判長が釈明を求めることにより、相手方の主張の明確化を図ります。

相手方の主張における根拠や論理構成をはっきりさせることで、攻撃と防御の対象が特定され、訴訟における争点が絞り込まれます。これにより、裁判官にとっても争点が明瞭となり、無用な審理の長期化を防ぎつつ、円滑な手続きが可能となります。

3.当事者の求釈明的行為の限界

一方で、訴訟の手続きを進める中で相手方に事実関係を説明させたいと考えたり、自方に有利な事実を相手方の口から認めさせたいと考えたりして、求釈明を活用しようとするアプローチがしばしばみられます(求・求釈明とでもいうべきもの。ただし、これを求釈明と呼ぶことも多いです。)。しかし、このような期待を持って求釈明を求めたとしても、意図した通りの成果が得られる可能性は低いです。

民事訴訟における弁論主義の原則のもとでは、どのような事実を裁判所に提出し、どのような主張を行わないかについての決定権は、各当事者に委ねられています。当事者には、自らの立場を有利にするための主張を行う自由がある一方で、自らに不利となる事実を進んで開示したり、相手方の追及に対して積極的に事実を認めたりする義務までは課されていないと解されています。そのため、相手方に対して当事者から直接的に釈明を求める行為は、あくまでも相手の任意の主張を促す意味しかありません。

したがって、相手方に対して不利な事実の開示を求めてたとしても、相手方は回答を拒否したり、あえて抽象的な回答に終始したりすることが十分に予想されます。相手方が応じない態度をとった場合、開示を繰り返し求めることは、結果として訴訟手続きが空転してしまうリスクを抱えることになります。相手方に自主的な自白や説明を期待して開示を求める行為は、実効性の乏しい手段であることは否定できません。

4.当事者の求釈明的行為のリスク

相手方の主張に矛盾や説明不足が存在する場合、相手を追及し、追いつめるための攻撃手段として、相手に主張させたいという考えることがあるかもしれません。しかし、訴訟戦略の観点から考えると、そのような手法には合理性が乏しく、むしろこちら側にとって不利益をもたらすリスクがあります。

裁判において相手方の主張が曖昧であり、主張立証が不十分である場合、本来であればその不備によって不利益を受けるのは相手方自身です。主張すべき要件事実が記載されていない場合や、主張を裏付ける証拠が示されていない場合、裁判官は相手方の主張を採用することができません。つまり、相手方が自ら主張や立証を怠っている状態は、こちら側にとって優位な状況であるといえます。

この状況において、あえて求釈明を行い「主張の根拠となる事実の説明を求める」「証拠の提出がない理由を明らかにせよ」と指摘することは、相手方に自らの不備を気づかせ、主張の補正や証拠の補強を行う機会を与えることになります。相手方を追及する意図で行った行為が、結果として相手方を助ける働きをしてしまうという逆効果を生むリスクについては、事前に検討する必要があります。

5.「求釈明」や求釈明的行為に依存せず自分の主張立証行う対応

訴訟手続きにおいて望ましい成果を目指すためには、相手方の対応に左右される姿勢から離れ、こちら側の主張と証拠の提示を徹底する対応が極めて有効です。相手方の主張に依存するのではなく、自らの攻撃防御を確固たるものにすることが、民事訴訟の本質です。

相手方の主張に不備や矛盾が存在するならば、こちら側の主張や立証を適切に行い、結果として相手方の主張の信用性を失わせれば良いのです。相手方の主張が真実と異なっていることや、法的な要件を満たしていないことを裁判官に示すことにより、裁判官の心証を引き寄せることが王道です。

こちらが強固な主張立証を展開した結果として、裁判官自身が判決を下す上で相手方の主張の不備を正す必要があると判断した場合、裁判官は自らの職権によって相手方に釈明を求めることはあり得ます(民事訴訟法第149条第1項)。相手方が釈明に応じなければ、裁判官は相手方に対して厳しい心証を抱くことになるでしょう。また、相手方として、こちら側の主張立証を受けて、自らの主張立証に不備があると考えれば、こちら側が促さずとも、自主的に釈明を行うのが自然です。

つまり、あえて裁判官の求釈明を促す必要性は、そもそも乏しいのです。相手方に何かを行わせようとするのではなく、自らの主張立証を淡々と充実させることが、最終的に適切な判断を引き寄せる方法です。

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