1.証拠調べの前後で分かれる差し替えの可否
民事訴訟の審理において、契約書や重要文書の一部のみを甲号証などの証拠として提出したところ、後から目録や別添資料などの続きが存在することに気づくことがあります。このような場合に、すでに提出した証拠を新しい完全な書類と差し替えが可能かどうかは、裁判所による証拠調べ(民事訴訟法第219条)が完了しているか否かによって変わります。
証拠調べが未実施の段階、すなわち書面を裁判所や相手方に送付したものの、口頭弁論期日や弁論準備手続期日において裁判官による取り調べが行われていない状態であれば、証拠調べ申請の取下げや訂正の申し出を行ったうえで正しく作成し直した書面へと事実上差し替えることが可能です。この場合、証拠説明書も記載事項を訂正したものを提出することになります。
一方で、すでに裁判の期日を経て証拠調べの手続きが完了している場合、その証拠は裁判資料になっています。当事者の意向で取り除いくことはできません。したがって、すでに期日を経過している場合には、差し替えという形式ではなく、新たな証拠としての提出手続きをすることになります。
2.一体の書類を改めて提出する場合における証拠番号
すでに証拠調べが完了している段階で、本来一体であった契約書と別添資料や細目目録を改めて裁判所に提出する場合は、既存の号証について差し替えるのではなく、新たな証拠番号を付与して提出することになります。例えば、最初に提出した契約書本文が甲第1号証として取り調べられている場合、後から判明した別添資料も含めた全体を新しい号証を付した形で新たに証拠申し出を行います。
書類として完全に別の性質を持つものであれば当然に新しい独立した号証として提出します。他方で、過去に出した書類と本来は一冊のファイリングや一つの契約書を構成する一体の文書であった場合であれば、改めて全ページを一体化させた状態で提出することが望ましいです。不足していたページだけを新たに提出すると、裁判官や相手方がどの本文に対応する資料であるかを確認する作業が複雑になり、審理の円滑な進行を阻害しかねません。
3.過去の提出証拠との同一性と一部提出の経緯を説明する
新たな証拠番号を付して一体の文書を提出する際には、単に書類を送付するだけではなく、証拠説明書(民事訴訟規則第99条)や準備書面において、すでに提出済みの証拠との関係性を明瞭に説明するべきです。具体的には、新しく提出する号証が、過去に提出した何号証と同一の書面であり、どの部分が新しく追加された別添や目録であるのかを具体的に記載します。単に書類を再提出しただけでは、裁判所や相手方に対して何が変更されたのか、また新しく何が付け加わったのかが直ちには伝わらず、不必要な疑念や手続き上の解釈の食い違いを生じさせる原因となるためです。
さらに、なぜ最初の段階で書類の一部のみを証拠として提出するに至ったのかという理由についても、記載しておくことが適当です。大部なファイリングの中から当事者が重要だと判断した部分だけを抜粋して提出したのか、あるいは当初は単体で完結していると誤認していたため結果として一部提出になってしまったといった事由は、訴訟において発生しやすい事象であり、合理的な説明がなされていれば問題視されることはありません。
提出に至った理由を隠すことなく説明することで、相手方や裁判所からの意図的な不利益隠しであるとの追及を未然に防ぐ効果が期待できます。
4.説明を欠いた再提出のリスク
過去に提出した証拠と類似または重複する資料を理由説明なしに再度提出した場合、裁判官や相手方当事者に不要な混乱を生じさせる可能性があります。裁判官は日々多数の事件を平行して抱えており、過去に提出された証拠の細部までを完璧に記憶しているとは限らないため、何の補足説明もないまま似たような契約書が別番号で出されると、内容が微妙に異なる別の合意書が複数存在するのではないかという誤解を招くおそれがあります。
裁判官は、書類をしっかりと確認すれば、同一の書類であることは理解するでしょうし、期日において本人や代理人に確認すれば問題がないことがほとんどですが、わざわざ裁判官に疑問の抱かせる必要はありません。当事者側から自発的に準備書面等で理由を提示しておくことが、円滑な審理を維持する上で重要です。
5.一体としての証拠を速やかに再提出する
証拠の一部漏れや関連する別添資料の存在に気づいたとします。最初に行うべき行動は、該当する書類の全体を確認し、抜けていた目録や別添が契約の重要な条件や権利義務関係にどのように影響するかを分析します。
その上で、書類全体を証拠として提出すべきだと判断したときは、速やかに証拠として提出するべきです。対応を先送りにすればするほど、準備書面の記載内容との整合性をとる手間が増えてしまいます。気づいた時点での迅速に証拠として提出し、裁判所に事情を説明することで、裁判所に適切に主張や事実関係を伝えることが可能となります。
