1.相手方の役員や家族を証人として申請する手続と裁判所の採用基準
民事訴訟において、訴訟の当事者が特定の人物を裁判所に証人として呼び出し、尋問を求める手続きは重要な証拠調べのひとつです。証人は証拠方法の一つであり、訴訟当事者以外の第三者であれば、原則として誰であっても申請の対象とすることが可能です。
これは自らの関係者に限られず、訴訟で対立している相手方の関係者であっても同様です。例えば、企業を相手取り損害賠償などを請求する訴訟において、その会社の役員や従業員を証人として申し出ることや、取引上の当事者であり相手方により近い立場にある人物、さらには相手方の同居の親族などを証人として裁判所に申請すること自体は、手続法上は可能です(民事訴訟法第201条)。
しかし、当事者が証人として申請したからといって、その人物が直ちに法廷に呼び出されるわけではありません。裁判所は、出された証人尋問の申し出に対して、その尋問が争点の解明や立証のために必要であるかを検討し、採用するかを決定します(民事訴訟法第181条1項)。
裁判所としては無用な審理の長期化や無関係な尋問を避けるため、採用の可否は慎重に判断されます。相手方の関係者を証人として呼ぶ場合、裁判官に対してその人物を法廷で尋問することの必要性および重要性を論理的に説明し、納得させなければなりません。なぜその特定の人物の証言でなければならないのか、他の書面による証拠では代用できない理由は何なのかを説得的に示すことが必要です。
2.相手方に圧力をかける目的での申請が退けられる理由
相手方の関係者を証人として申請しようとする動機の中には、法廷という公の場に引き出すことで精神的な圧力を加えたい、あるいは心理的な負担を感じさせて訴訟を有利に運んだり和解に向かいたいという考えが含まれることがあります。
特に感情的な対立が激しくなっている事案では、こうした感情が生じることは理解できます。しかし、裁判所は不必要な証拠の調べは行いません。単なる相手方への嫌がらせやプレッシャーを与える目的での証人申出が認められることはありません。
尋問申出書には立証すべき事実と尋問の必要性を具体的に記載しなければならず、裁判官がその内容を精査した際、争点と直接の関係がない場合や、すでに提出されている客観的な書面で十分に事実が確認できると判断された場合、申請は却下されます。
裁判所は限られた時間の中で適切な裁判を行う職責を負っており、感情的な嫌がらせに裁判手続が利用されることを認めることはありません。書証の提出などは特に制限されることはありませんが、ある程度の時間を必要とし、証人に対して証言義務を課す証人尋問の採用は簡単ではありません。
証人申請を行う際は、相手への感情的な揺さぶりを目的とするのではなく、裁判官が判決を書く上で必要とする証拠であるかという視点から検討を行う必要があります。
3.事前に事情聴取ができない敵性証人を尋問することのリスク
裁判所に証人申請が認められ、相手方の関係者が証人として採用されたとしても、実際の証人尋問において望ましい結果が得られるとは限りません。
自分側に協力的な証人であれば、尋問の前に事前の打ち合わせを行い、どのような質問に対してどのように回答するか、記憶の確認や事実関係の整理を行うことができます。しかし、相手方の役員や親族、親しい取引先といった、いわゆる敵性証人の場合、尋問前に事前に面談して事情を聞くことは現実的に不可能です。
もし事前に連絡したとしても、相手方の弁護士や本人が警戒し、事前接触を拒否されることが一般的です。その結果、法廷の証言台に立ったときに、その証人がどのような証言をするか予測がつかない状態で尋問を開始せざるを得ません。
法廷でのやり取りが初対面かつ一発勝負となるため、申請者の意図とは全く異なる証言がなされたり、相手方に極めて有利な嘘や言い逃れを展開されたりする危険性が付きまといます。
裁判所の前で宣誓の上でなされる証言は、判決の基礎となる有力な証拠となります。意図に反して相手方に有利な証言が残ってしまった場合、それを否定することは容易ではありません。真実を話してくれるはずだという甘い期待に基づいた敵性証人の尋問は、かえって自らの訴訟上の立場を悪化させる厳しい事態を招くことになります。
4.主尋問における誘導尋問の制限と不利な証言を引き出さないための客観的証拠の活用
証人尋問の手続きでは、証人を申請した側がまず最初に行う尋問を「主尋問」と呼び、その後に対立する側が行う尋問を「反対尋問」と呼びます。
尋問のルールとして、主尋問においては原則として証人に答えを誘導するような質問を行うことが禁止されています(民事訴訟規則第115条2項)。しかし、正当な理由がある場合には誘導尋問も可能であり、相手方や敵意を有する証人を主尋問する場合には、許容される可能性があります。
しかし、敵性証人の場合、基本的には申請者が証人の回答をコントロールすることは難しく、証人がある程度自由な言葉で回答できる状況が生じることは避けられません。事前打ち合わせができていない敵性証人に対して主尋問を行う場合、承認が、相手方に都合の良い弁明や正当化を述べる機会を得る可能性が高いです。
このリスクを回避するためには、証人の良心や善意に期待するのではなく、すでに手元にある客観的な書面やデータなどの証拠に拠ることになります。例えば、相手方が過去に作成した電子メール、契約書、業務日報、録音データなど、否定できない客観的事実を示し、その事実と矛盾する証言をさせないような尋問の組み立てを行う必要があります。
客観的な裏付けが存在しない状態で敵性証人の尋問に踏み切ることは、暗闇に向かって矢を放つようなものであり、得られるメリットに対して抱え込むリスクが極めて大きいと言えます。
5.民事訴訟の初期段階における適切な証拠収集と慎重な立証方針の組み立て
訴訟を有利に進め、納得のいく解決を目指す上では、紛争の初期段階から冷静に証拠の分析を行い、過不足のない立証方針を組み立てることが求められます。相手方の関係者を証人として呼ぶべきか否かの判断は、単独の決定として行うものではなく、訴訟全体の戦略の中に位置付けられるものです。
争点となっている事実関係を証明するための方法としては、相手方関係者の尋問だけでなく、様々な代替的な書証の確保が考えられます。手元にある資料で十分に主張が裏付けられるのであれば、あえてリスクの高い敵性証人の尋問を行う必要はありません。
また、訴訟が進行する前に、どのような証拠が手元にあり、何が不足しているのか、相手方がどのような主張をしてくるのかを予測することも大切です。相手方の関係者を証人として立てる場合であっても、裁判官を納得させる立証趣旨の作成や、客観的証拠に基づいた尋問事項の作成など、十分な準備が不可欠です。直感や感情的な対立から安易に証人尋問を選択するのではなく、法的な見通しを立てた上で、リスクを最小限に抑えられるかを判断しなければなりません。
