取引先や債務者から自己破産を告げられた際の対応|破産手続前後の回収可能性と限界

1.債務者から破産予告を受けたとき

取引先や個人である債務者から自己破産の申し立てを行う旨を告げられた場合、あるいは債務者の代理人弁護士から受任通知が届いた場合、まず確認すべきは自身の債権の内容です。

債務者が弁護士に破産手続きを依頼した段階では、支払いが停止されます。受任通知が到達した後は、債権者からの請求や連絡の対応は、基本的には代理人弁護士において行うことになります。債務者に対して請求や取立てを行ったとしても、不当な威迫とみなされる不利益を生じかねません。

破産手続きの公式な開始は、債務者が裁判所に申立てを行い、裁判所が破産手続開始決定(破産法第30条第1項)を出したときとなります。この決定が出されると、破産者の有する財産は破産財団として管理され、破産管財人の管理下に置かれます。破産手続きにおいては、すべての破産債権者を平等に扱うという債権者平等の原則(破産法第2条第10項)が適用されるため、個別の債権者が優先的に弁済を受けることは認められなくなります。債務者が債務超過に陥っているからこそ破産手続きが執られるため、満額の回収を期待することは困難といえます。

なお、受任通知が届いた段階であっても、稀に実際の破産申立てに至らないことがあります。債務者の気が変わり破産を断念する場合や、弁護士費用や裁判所への予納金を準備できずに弁護士が辞任することなどが理由です。そのため、債務者が単に破産の意向を示しているだけなのか、既に申立書類の作成や予納金の納付を完了して申し立て直前の段階にあるのかという進捗状況は、把握することが望ましいです。

2.破産手続開始前における回収と偏頗弁済・否認権行使のリスク

債務者から破産の方針を聞かされた直後、商品を引き揚げたり、相殺を行ったり、債務者から支払いを受けとったりすることがあります。資金の回収を図りたいという経営上の要請は当然のものですが、破産手続き直前の回収には法的なリスクが存在します。

破産手続きが開始された後、裁判所から選任された破産管財人は、破産手続開始前に特定の一部の債権者だけに利益を与える形で行われた弁済や担保提供を偏頗弁済(破産法第162条第1項)として巻き戻せる権限(否認権)を持っています。仮に破産開始決定の直前に債務者から回収することに成功したとしても、後に破産管財人から否認権を行使されると、回収した金銭を破産財団へ返還(破産法第167条)することになります。その場合、回収に費やした労力やコストは考慮されず、一度返還した金銭は他の債権者とともに配当原資に組み入れられ、改めて分配を待つのみとなってしまいます。

破産者の財産が費消されたり流出することを防ぎ、結果的に破産財団を維持するという事実上の意味を持つといえるかもしれませんが、自社の債権を優先的に充当して回収するという目的においては実務上の意味がありません。しかし、通常は債務者が応じることはありませんから、無用なトラブルを生じさせる可能性が高いです。

3.訴訟提起及び強制執行の可否と意義

債務者が任意に支払わない場合、一般的には、法的な対抗手段として訴訟を提起(民事訴訟法第133条)して判決を得ることや、強制執行(民事執行法第22条)の手続きを進めることを検討します。破産の意向を示されたときにも、これらの手続きを検討するかもしれません。

しかし、訴訟を提起して勝利判決を得たとしても、それによって破産手続上の優先権が発生するわけではありません。判決を得た債権であっても、破産手続においては他の判決を得ていない一般的な破産債権と同等の扱いに留まります。さらに、裁判所によって破産手続が開始されれば、裁判は中断し、強制執行は原則としてその効力を失います(破産法第42条第1項)。差押えに至るまでに多額の費用や時間的なリソースを費やしたとしても、破産開始決定によりそれらの努力が無に帰す可能性が高いのです。

ただし、この法的着手が一概に無意味であるとは言い切れません。債務者が単に破産を口実に支払いを逃れようとしている場合や、申し立てを行う見込みが極めて低い状況であれば、法的な手続きを着実に進めることは、平時同様に意味があります。

4.破産手続内における配当の実情と担保権者の優先的地位

破産手続が正式に開始された場合、債権者は破産管財人に対して自らの債権を届け出ることにより、手続きへ参加します。破産管財人は破産者の所有する不動産、有価証券、売掛金などの資産を売却・換価し、破産財団を形成した上で、一定の優先順位に従って債権者へ配当(破産法第193条)を行います。

ここで受け入れるべき現実として、配当に回される原資の少なさが挙げられます。破産申し立てに至る債務者は、申立時点で既に手元に目ぼしい財産を残していないことが大半です。財産が裁判所の手続き費用(予納金)すら賄えない場合などは、破産手続開始と同時に手続きが終了する同時廃止(破産法第216条第1項)となり、配当手続きすら行われずに終了することもあります。破産管財人が選任されて財産調査が行われる事案であっても、一般の破産債権者へ配当される割合は数パーセント程度にとどまるか、あるいは零であることも珍しくありません。

一方で、担保権を事前に設定している場合は状況が大きく異なります。不動産に対する抵当権や質権、一定の商事留置権などを有している債権者は、破産手続において別除権者(破産法第2条第9項、第65条第1項)として扱われます。別除権者は、破産手続の枠組みにとらわれることなく、担保対象となった財産を独自に競売などの手続きによって換価し、その売却益から他の債権者に先立って優先的に債権の回収に充てることが認められています。担保は破産をされても有効であるということです。担保権の有無が、破産時における回収可能性を決定づける境界線となります。

5.免責不許可事由に対する意見申立の実効性と非免責債権

債務者にとって、破産手続きの最終的な目的は、自己の債務を免除してもらう免責許可決定(破産法第248条第1項)を得ることです。免責許可決定が確定すると、破産者は配当後の残りの債務について支払義務を免れることができます。そのため、債権者としては、免責を阻止できないかという点に関心を寄せることになります。

破産法には、虚偽の記載をして資金を調達した事例や、浪費・賭博によって著しく財産を減少させた事例など、免責不許可事由(破産法第252条第1項)が定められています。債権者は裁判所に対して、意見申立書を提出(破産法第251条第1項)し、債務者の事情を指摘して免責を許可すべきではないと主張することが可能です。

しかしながら、破産法は、免責不許可事由を定める一方で、裁判所の職権によって免責を認める裁量免責(破産法第252条第2項)を認めています。実務上は、過去の不誠実な行為があったとしても、破産者が反省を示し再起を図る姿勢を見せ、破産手続きに協力している場合、裁量によって免責が認められる事例が圧倒的多数を占めており、免責が不許可となるのは極めて例外的な場合に限れられています。

もっとも、特定の事由に該当する債権は非免責債権(破産法第253条第1項)として指定され、免責許可決定が出された後であっても弁済義務が消滅しません。例えば、破産者が悪意で加えた積極的な不法行為に基づく損害賠償請求権(同項第2号)や、故意・重過失により生じさせた生命・身体の侵害に対する損害賠償請求権(同項第3号)などがこれに該当します。債権者の有する債権がこれらの非免責債権に該当する場合、破産手続の終了後であっても債務者に対して請求を継続することができます。その場合には、将来の強制執行に備えてあらかじめ訴訟を起こし、判決などの債務名義を獲得しておくことは、破産とは関係のない一般的な回収準備と同様に、有効かつ現実的な方法になります。

偏頗弁済の法的リスクと回避の重要性|破産手続きにおける公平な債権者対応の指針
1.債権者平等の原則と偏頗弁済が成立する法的背景 経済的に困窮し、全ての債務を予定通りに履行することが困難になった状況において、特定の債権者にだけ優先的に返済を…
ohj.jp