個人間のお金の貸し借りで後悔しないために|貸金の返済が滞った場合の現実と事前に講じるべき予防策

2026年8月6日

1.相手が自発的に返済しない場合に直面する回収手続の現実

当事者間で金銭の貸し借りを行う際、金銭を交付し相手方が返済を約束することで、法的には金銭消費貸借契約(民法第587条)が成立します。相手方が約束通り期日までに返済を行えばトラブルに発展することはなく、何の問題もありません。

しかし、返済期日を過ぎても支払いがなされなかったり、連絡が途絶えてしまったりした場合には、法的手段による回収を検討せざるを得なくなります。相手方が自発的に支払いに応じない状況において、強制的に金銭を回収するための法的手続きは、最終的に裁判所を介した手続きに行き着きます。

裁判所を通じた回収方法には、支払督促(民事訴訟法第382条)や少額訴訟(民事訴訟法第368条)など、比較的簡易的とされる手続きも存在します。支払督促は書類審査のみで相手方に支払いを命じる手続きであり、少額訴訟は60万円以下の金銭支払請求において原則1回の審理で判決を言い渡す手続きです。

しかし、これらの手続きは相手方が異議を申し立てた時点で、すべて通常の民事訴訟へと移行する仕組みになっています。相手方が争う姿勢を見せた場合や督促に応じない場合は、最終的に通常訴訟によって判決を得るか、裁判上の和解(民事訴訟法第267条)を成立させる以外に回収を進める道はありません。

裁判に対して、特別な手続きという印象がある方もおられます。「相手が支払いに応じない。話し合いにも応じない。裁判にまでする気はないのだが、どういった方法があるか」と聞かれることがありますが、端的に答えるのであれば、裁判以外に方法はありません。簡単に資金を回収できる特別な迂回路が存在しないことを理解しておく必要があります。

2.勝訴判決を得るために不可欠な相手方の特定と証拠の確保

金銭回収のために裁判を起こし、認容判決(債務名義)を得るまでには、解決すべき課題が存在します。

第一の課題は、自己の主張を証明し、勝訴することです。裁判で勝訴するためには、被告となる相手方の氏名及び住所が特定されていること、貸金の存在を証明できる証拠が揃っていることが条件となります。近年では、インターネット上の交流サイトや各種アプリ等を通じて知り合った相手とお金のやり取りを行う場面が見受けられます。しかし、ハンドルネームやアプリアカウント名しか判明していない状態では、裁判所に提出する訴状(民事訴訟法第133条)に被告を特定して記載することができず、訴訟提起そのものが困難となことがあります。

相手方を特定するためには、運転免許証やマイナンバーカードなどの公的身分証明書を確認し、控えておくべきです。法的に確実な方法としては、印鑑登録証明書の交付を受け、実印による捺印を求める手続きがあります。個人情報だからと提示をしぶる方もいますが、そのような方に対しては、お金を貸すべきではありません。

お金を渡した事実を証明する手段としては、現金の手渡しではなく銀行口座への振込履歴を残すことが望ましいです。現金手渡しの際に領収書を作成する方法もありますが、後から書面の成立自体や記載内容の真正性を争われる懸念が残ります。金融機関を通じた送金であれば、第三者機関の記録として客観的な立証が可能となります。

さらに、単なるお金の移動ではなく、返済義務を伴う貸し付けであったことを示すため、金銭消費貸借契約書や借用書を作成し、利息や返済期日を明記しておくことが勝訴の確率を高める上で重要です。

3.裁判で勝訴した後の財産特定と強制執行

裁判で勝訴し、確定判決や和解調書などの債務名義(民事執行法第22条)を取得したとしても、それだけで相手方の銀行口座から貸金が自発的に引き落とされるわけではありません。

裁判所の判決が出てもなお相手方が返済を拒み続ける場合には、裁判所に強制執行の申立て(民事執行法第33条)を行い、相手方の財産を差し押さえる必要があります。ここで直面する第二の課題は、差し押さえるべき相手方の財産を債権者自身で調査し、指定しなければならないことです。裁判所が債務者の所有する財産や預貯金口座を自発的に探してくれることはありません。

強制執行を行うにあたっては、相手方が口座を所有している金融機関の支店名、勤務先(給与差押えの場合)、所有する不動産の所在地などを申立書に具体的に記載する必要があります。相手方が財産を隠蔽している場合や、頻繁に転職・転居を繰り返している場合、差押対象の特定は非常に困難を極めます。法改正により、債務者の財産状況を開示させる財産開示手続(民事執行法第197条)や、金融機関や役所等から情報を取得する第三者取得情報獲得手続(民事執行法第204条等)が整備されましたが、これらの手続きを利用する場合であっても相応の時間と費用がかかります。

4.貸金回収の困難さを踏まえた事前の担保設定と保証人の重要性

回収に及ぶ際の手続きや費用の重さ、相手方の無資力リスクが存在するため、銀行などの金融機関が資金の貸し付けを行う際には、厳格な事前対応が行われます。金融機関は、返済がされないことも考慮して貸付を行っているのです。

金融機関は、返済が滞った場合に備えて不動産に抵抗権(民法第369条)を設定したり、資力のある第三者を連帯保証人(民法第454条)として立てさせたりすることが一般的です。担保権を設定しておけば、万が一不払いが生じた際にも対象不動産を競売にかけ、優先的に弁済を受けることが可能となり、連帯保証人がいれば主債務者が無資力であっても保証人に対して全額の支払いを請求することができます。

個人間でのお金の貸し借りであっても、法的な仕組みや回収に伴うリスク構造は金融機関の融資と一切変わりません。1万円という小額の貸し付けであっても、あるいは数千万円の大口の貸し付けであっても、相手方が返済を拒んだ場合に辿る法的プロセスは同一です。

親しい間柄であることを理由に契約書の作成や身元確認、担保・保証人の設定といった手続きを省略することは、貸し手側が将来の回収困難という不利益を一方的に背負うことを意味します。金銭を他人に貸与する際は、万が一の回収手続きまで見据え、あらかじめ回収不能となるリスクをどこまで許容できるかを事前に考えておくことが必要です。

5.返済が滞るリスクを見極めた貸付の判断とトラブル発生直後の初期対応

事前対策を十分に講じることが難しい状況であれば、金銭の貸し付け自体を辞退することがリスク管理の観点から合理的と言えます。金銭を貸し付ける決定をするのであれば、前述の通り公的な身分証明書による本人確認、銀行振込による金銭送金、ならびに金銭消費貸借契約書の作成を最低限の条件とすべきです。

返済期日を過ぎても支払いがない場合、まずはこれまでのやり取りの履歴、口座の送金明細、相手方の住所や連絡先など、手元にある事実関係を整理することが重要です。相手方に対して支払いを催促する際は、後々の訴訟手続きにおいて請求の事実や期日を証明できるよう、内容証明郵便(郵便法第44条)を活用して送達の記録を残す方法が有効です。早期段階から客観的な証拠を集め、相手方の返済能力や誠実性を慎重に見極めながら、確定判決の取得および強制執行手続きを見据えた整然とした手続きを進めていくことが求められます。

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