1.任意整理における分割払い合意の法的性質
任意整理において、債権者が分割払いに合意するという対応は、元々一括払いである債権や、すでに期限の利益を喪失して一括請求ができる状態になった債権について、その支払時期を将来にわたって遅延させる、すなわち履行を猶予することを意味します。
本来であれば、約定の支払期日を過ぎた段階で遅延損害金が当然に発生し(民法第419条第1項本文)、債権者は直ちに全額の回収を求める権利を有しています。この遅延損害金の発生を停止または猶予し、元金や発生済みの利息や遅延損害金を長期間にわたって分けて支払う合意を形成することは、法的観点から見れば債務者に一方的な利益をもたらし、債権者には権利の制約という一方的な不利益を生じます。
そのため、債務者が自らの都合のみで勝手に分割して振り込みを開始したとしても、それは法的な分割払い合意とは認められず、単なる履行遅滞または債務不履行(民法第415条第1項)となります。
分割払いを有効な合意として成立させるには、債権者との間での和解契約(民法第695条)が必要であり、それには債権者側の承諾が不可欠です。
債権者には分割に応じる法的義務が存在しないため、債務者から交渉を行えば必ず分割払いが認められるという保証はありません。合意を成立させるためには、債権者が不利益を受け入れてでも分割払いに応じる合理的な理由が必要です。
2.消費者金融やカード会社が分割案を受け入れる理由
一見すると債務者に有利で債権者に不利益な分割払い合意ですが、消費者金融やクレジットカード会社といった金融事業者は、一定の分割払い合意については、高い確率で応じています。そこには、明確な合理性が存在します。
金融事業者は多数の債務者を抱えており、返済が滞った個々の債務者に対して逐一訴訟を提起し、裁判所から確定判決などの債務名義を得ていては、多大な時間と費用が発生します。さらに、裁判手続きを経て強制執行(民事執行法第22条)を試みたとしても、債務者に差し押さえるべき給与や預貯金、不動産などの財産が存在しなければ、結果として手続きは不奏功に終わり、コストに見合う結果が得れれないリスクがあります。
このような回収不能リスクや訴訟コストを考慮した場合、回収手続きにかかる負担を回避し、遅延損害金の発生を止めた上で、3年から5年程度(36回から60回払い)の分割返済によって元金及び既発生の利息及び遅延損害金を確実に回収できるのであれば、債権者にとっても実質的なメリットがあります。
そのため、消費者金融やカード会社が債権者である場合、個々の債務者の事情を精査して厳密な追及を行うよりも、一定の条件を満たす分割和解に応じる方針をとることが多いです。これにより、将来的な遅延損害金を免除した状態での長期分割返済という和解が比較的成立しやすくなっています。
3.個人や一般企業との分割交渉が難しい理由
他方、貸主が消費者金融などの事業者ではなく、知人や親族といった個人、あるいは一般の取引先企業である場合、分割払いの交渉内容は大きく変化します。こうした債権者は、一律の手続きで大量の債権を処理する金融業者とは異なり、個人の感情や特定の資金事情が色濃く反映されるためです。
交渉を行う過程で債務の存在そのものを認めることになりますが、分割払いの合意が成立するかどうかは個別の交渉内容に大きく左右されます。特に、債務者が自宅不動産や高額な動産など、強制執行によって容易に回収できる財産を所有している場合、債権者にとって分割払いに応じる利点はほとんど存在しません。
強制執行を行えば高い確率で回収できる見込みがある事案において、あえて長期間の分割払いを認める合理的理由は債権者にはありません。したがって、このような状況で分割払いの和解を目指す場合は、一般的な金融事業者向けの交渉とは異なる条件の提示を検討しなければなりません。
例えば、返済期間を短期間にしたり、初回返済時に相当額の頭金をまとめて支払う姿勢を示したりするなど、債権者が譲歩するだけの理由を示すことが必要になります。
4.分割払いに向けた具体的な合意成立までの流れ
任意整理による分割払いを実現させるためには、計画的に手続きを進めることが求められます。最初の段階として、現在の正確な収入と支出のバランス、残存する債務の総額、および各債権者の内訳を整理し、客観的に継続して支払いが可能な返済可能額を算出します。この分析に基づき、将来利息の免除や最適な返済期間を設定した和解案を作成し、各債権者への交渉を開始します。交渉において合意に達した場合は、合意内容を明確にするための和解書(債務承認弁済契約書)を作成し、双方が調印を行います。
初期対応において重要となるのは、現状の数字を正確に把握した上で整然とした対応を行うことです。返済が厳しいからといって連絡を断ったり、不可能な返済約束をその場しのぎで行ったりする行為は、債権者との信頼関係を損ない、結果として将来的な分割交渉の選択肢を自ら狭める結果となります。
支払いが滞り始めた初期の段階で、自身の資産や収入に見合った現実的な返済プランを検討することが必要です。自転車操業的な対応をすると、立て直しがより難しくなり、選択肢が破産しかなくなるという事態にもなりかねません。
