相手方から交渉の返答がない場合の次の行動|回答義務の有無と紛争解決への決断

1.示談交渉において相手方に回答義務はない

紛争が発生した際、当事者間あるいは代理人弁護士を交えて話し合いによる解決を模索することは一般的な手法です。しかし、裁判外の交渉段階において、相手方に対して何らかの返答をすることや、特定の期限までに回答することを強制することはできません。

たとえ差出人を弁護士とし、内容証明郵便を用いて「本書面到達後二週間以内に誠意ある回答を求める」といった内容で送付したとしても、その期限設定に法的な拘束力はありません。いかなる交渉に応じるか、あるいは応じないか、どのような条件で合意するかは当事者の自由であり、沈黙を守り無視することもまた一つの選択肢として許容されています。

話し合いによって早期に紛争を解決したいと考える相手方であれば、提示された期限を尊重して速やかに返答を試みたり、あるいは指定された期限内に準備に時間を要する旨の連絡を入れたりするなどの配慮を示すことはあります。

しかし、それはあくまで円滑な合意形成を目指す上での任意の対応になります。義務の履行ではありません。そのため、相手方が終始沈黙を保ち、全く返答を行わなかったり、中身のない回答を繰り返したとしても、その行為自体を直ちに違法として追及し、損害賠償などを請求することはできません。

交渉の場につくかどうかさえも相手方の任意である以上、実質的な回答がないという事実に直面した際には、相手には応じる義務がないという現実を受け止める必要があります。

2.相手方に代理人弁護士がいる場合の回答の目安

相手方が代理人として弁護士を選任している場合、弁護士としての職務上の観点から、書面が完全に無視されるという事態は多くありません。何らかの受領連絡や、方針を検討中である旨の通知が届くことが一般的です。

しかし、弁護士が介在しているからといって、交渉が迅速に進展するとは限らず、結果として議論が暗礁に乗り上げることは珍しくありません。代理人弁護士がいるからといって、応じる義務が生じるわけではないのです。

一般に、書面が相手方弁護士のもとに届いてから具体的な回答が生成されるまでには、最低でも二週間程度の期間を要するのは当然だと考えるべきです。書面を確認した弁護士は、これまでの交渉経緯を確認し、事実関係や法的論点について整理を行ったうえで、依頼者との打ち合わせ日程を調整します。互いの時間の都合などにより、面談や協議の設定だけに数日から一週間を要することも珍しくありません。実際の協議を経て、回答の素案を作成して再び依頼者の承諾を得るというプロセスを踏みます。これらの工程を適切に遂行するためには、二週間という期間は極めて短く、むしろこの期間内に返答がなされる場合は迅速な部類に属します。

民事訴訟手続きにおいては、次回の裁判期日が約一か月後に指定され、その間に反論の書面を準備することが通例です。そのため、弁護士の感覚としては、一般的な事案であれば一か月程度の猶予があれば合理的な回答が可能であるという基準が存在します。

交渉段階では、裁判ほど厳密な証拠の選別や準備書面の作成までは要求されないため、一か月よりも短い期間での対応が期待される側面もありますが、相手方の事情によっては一か月を要することも不自然ではありません。したがって、返答を待つ側としては、特別な事情がなくとも、二週間から一か月程度の期間が必要であることをあらかじめ想定しておくことになります。

3.返答が遅延している状況において推測や相手方への非難が不毛であること

相手方からの返答が滞っている期間中、その理由について様々な想像を巡らせることは、やむを得ませんが、当事者にとって精神的な負担を増大させる要因となるわりに、得られるものはありません。

相手方が意図的に引き延ばし工作を行っているのではないか、あるいは高度な法的手続きや戦略的な作戦を構築するために時間を費やしているのではないか、といった邪推をしてしまう方は少なくありません。

しかし、実務的な観点から見れば、返答が遅れている背景に特別な戦略や複雑な意図が存在する場合は極めて稀ですし、かりにそのような事情があったとしても判明することはさらに稀です。多く場合、単に相手方が日々の業務や生活に追われて対応を後回しにしているか、弁護士との打ち合わせ日程が合わないといった、事務的かつ日常的な要因に起因しています。

実体の見えない遅延の理由について思考を費やすことは、気苦労を増やすだけであり、紛争解決における実質的な利益をもたらしません。このような状況において、相手方の対応を不誠実であると感情的に非難したとしても、解決に向かうことはありません。

立場を逆転させて考えた場合、自身が何らかの請求を受け、特定の期限までに回答するよう要求された際、その一方的な通告に対して反発を覚えたり、どのように回答すべきか苦慮して対応を保留にしたりすることは十分に起こり得るのではないでしょうか。

法的な回答義務がない以上、相手方も同様の心情により沈黙を選択している可能性があります。それを外部から咎める術はありません。一か月が経過してもなお具体的な返答がない場合、それは戦略の構築を意味するのではなく、単に話し合いによる解決の意思がないか、あるいは訴訟に発展してもやむを得ないという相手方の姿勢の表れであると推察することが妥当です。

4.交渉が決裂あるいは停滞した状態を打破するための民事訴訟

相手方が任意の交渉に応じず、返答を行わないことによって紛争が完全に停滞した場合、その状態を強制的に動かすための手段は民事訴訟の提起しかありません。

裁判手続きにおいては、裁判所という公の機関から訴状や呼出状が相手方に送達され、これを受領した相手方は法的な対抗を強いられることになります。もし相手方が訴訟を無視して裁判期日に出頭せず、答弁書も提出しない場合、原告の主張した事実を自白したものとみなされ(民事訴訟法第159条)、原告側の勝訴となる判決が下される仕組みとなっています。

そのため、いかに不誠実で交渉を無視し続けていた相手方であっても、訴訟が提起された段階で自身の権利を守り敗訴を免れるために、答弁書を提出して何らかの主張や反論を展開せざるを得なくなります。裁判手続きへと移行すれば、最終的には判決という形で、当事者の意思に関わらず強制的な決着が導き出されます。

紛争の長期化や相手方の不回答に悩まされる状態を終わらせるためには、裁判制度の利用が不可欠であり、唯一の解決策となります。裁判は時間的、経済的、さらには精神的な負担を伴うため、極力避けたいと考える心理は理解できますが、任意の交渉が機能しない状況において、裁判という選択肢を排除することは、同時に紛争が永久に進展しないという不利益を受け入れることを意味します。

相手方の出方を待ち続けるだけでは状況は好転しないため、法的な強制力を持つ手続きへの移行を視野に入れなければ、事態は進展しません。

5.紛争解決における決断の重さと裁判を選択しない選択が内包する真の意味

紛争の当事者が「裁判を起こすほどのことではない」とおっしゃる場面は少なくありません。しかし、この言葉の持つ含意は、正確に分析する必要があります。本当に、大したことではなく放置して構わないのか、それとも、裁判による負担を負いたくないだけなのかは、正直に考える必要があります。

任意の交渉において相手方が回答を拒絶している状況下で、裁判の手続きをとらないという選択を下すことは、実質的に「この問題が決着しなくても構わない」と受け入れていることと同義です。なぜなら、相手方に義務のない交渉の場において、唯一の強制力である裁判を拒絶すれば、相手方の沈黙を永続的に容認せざるを得なくなるからです。

裁判の時間的負担や準備の手間、場合によっては弁護士に依頼する費用の負担を回避したいが、紛争を解決したいという場合、相手方も同様に考えくれている必要があります。つまり、ある意味で相手方の協力が必要になるのです。相手方の協力が得られない場合、どこかの条件を変えるしかありません。

紛争を抱え続けること自体が、当事者の生活や事業において目に見えない精神的消耗や経済的リスクを生み出し続けます。どこかの段階で前へ進むための決断を下さなければなりません。

返答が遅い相手に対して焦燥感を抱き続けるくらいであれば、一か月の猶予を目安として区切りをつけ、速やかに法的手続きへと舵を切る基準を持つことが賢明です。紛争解決の主導権は、返答をしない相手方にあるのではなく、次の法的手続きを選択できる自分自身の側にあります。裁判を利用してでも権利を主張し決着をつけるという覚悟を持つことが、結果として停滞した事態を打開することになります。

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