民事訴訟における和解勧試のタイミング|裁判官の個別面接と提示案

1.訴訟の進行と和解が検討される三つの主要なタイミング

民事訴訟の手続きが進む中で、和解によって紛争を解決するという選択肢は常に存在しています。法律において、和解をいつ行わなければならないという決まりは定められていませんが、実際の裁判においては、和解が具体的に検討されるタイミングはおおむね三つの段階に分かれる傾向にあります。裁判は紛争解決の手段であって、判決も和解もそのための方策です。判決によって白黒をつけるだけでなく、当事者が納得できる形での和解での終結についても、意識しておくことが有益です。

(1)訴訟の初期段階

一つ目の段階は、訴訟の初期段階です。まだ双方の主張や証拠が十分に出揃っていない時期ですが、裁判官から大枠での解決が可能かどうかを打診されることがあります。

事案の性質によっては、細かな事実関係の争いに深く立ち入って互いに非難の応酬を繰り広げる前に、ざっくりとした条件で早期に決着をつけることが、時間的にも精神的にも双方の利益にかなう場合があるためです。

この段階では、当事者の主張も整理されていなかったり、実情が明瞭に表現されていなかったりします。そのため、裁判官の提案が、妥当性に欠けると感じる場合もあります。しかし、裁判官の理解が不十分だと考えて不安になったり苛立ったりする必要はありません。むしろ、和解についても積極的であり、先入観のない柔軟な思考の裁判官であると理解すべきです。

(2)主張と立証が出そろった段階

二つ目の段階は、双方の主張と主要な証拠の提出がほぼ出揃った時期です。この時期になると、当事者も裁判官も、最終的な判決がどのような内容になるか、ある程度の予測を立てることが可能になります。

判決の見通しを念頭に置きながら、具体的な金額や謝罪などの条件について折り合いがつくかどうかを検討する、和解の大きな好機となります。

このタイミングで和解が成立することは、比較的多いです。当事者としては、判決になった場合のリスクを考えつつ、現実的な落としどころを探ることになります。

(3)結審直前の段階

三つ目の段階は、当事者尋問や証人尋問がすべて終了した後の時期です。主張と立証が出そろった段階との違いは、尋問手続きを経たか否かです。尋問手続きは、審理の最終段階で行われます。

尋問手続きは、法廷での質問に答えるために数時間を要することもあり、事前の陳述書の作成や当日の法廷でのやり取りを含め、当事者にとって極めて重い負担を伴う手続きです。尋問という大きな山場を越えて証拠調べが実質的に完了した後ではありますが、判決を待つだけでなく、改めて和解の可能性が探られることになります。

2.裁判官による和解勧試の意図と当事者尋問の重み

裁判手続きの中で和解に向けた話し合いが始まるためには、何らかのきっかけが必要です。多くの場合、裁判官から和解の意向があるかどうかを尋ねられる和解勧試が行われます(民事訴訟法第89条)。

民事訴訟法

(和解の試み等)
第八十九条 裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。

この和解勧試の強さや踏み込み方は、担当する裁判官の訴訟指揮や事案の複雑さによって異なります。訴訟の初期段階では、裁判官もまずは双方の意向を軽く確認する程度にとどまることが一般的です。しかし、主張と立証が出揃った中盤以降になると、和解のための期日を設けるなど、具体的に双方の考えを聞き取る手続きへ移行することになります。

ここで当事者が直面するのが、尋問手続きの前に和解をするか、それとも尋問を経てから和解を検討するかという判断です。当事者尋問まで進んだ場合、和解に対する当事者の心理には二つの異なる反応が見られます。比較的よく見受けられるのは、厳しい反対尋問に耐え、自らの主張を法廷で全て述べ尽くしたのだから、もはや譲歩や歩み寄りはできないとして、明確な判決を下してほしいと望む状況です。ここまできた以上、徹底的に戦い抜くという意思の表れといえます。

他方で、少数ではありますが、法廷でお互いの言い分を直接聞き、相手方の考えに対する理解が深まったことで、かえって感情的な対立が和らぎ、和解に応じてもよいという心境の変化が生じる事案も存在します。尋問という手続きがもたらす精神的な影響は大きく、どの段階で和解のテーブルに着くか、あるいは和解を拒絶するかは、紛争解決の結末を左右する判断となります。

3.和解期日における個別面接の仕組み

和解のために設けられた期日において、当事者双方が同じ部屋で顔を突き合わせて直接議論を交わすことはあまりありません。実務上よく用いられるのは、裁判官が各当事者から個別に話を聞く交互面接という方式です。

法廷や別の部屋において、一方の当事者が退室し、裁判官ともう一方の当事者だけで話をする時間を設けます。その後、当事者を入れ替えて再び話を聞くという手順を繰り返します。近年増加しているオンラインを利用した期日においても、一方の当事者の通信を一時的に切断したりすることで、物理的な対面と同様の個別面接の環境を作り出しています。

この個別面接の目的は、相手方が同席している場では口に出せない本音や、譲歩の限界ラインについて、裁判官に率直に伝える場を設けることです。当事者にとって、自分から和解の妥協条件を相手に提示することは、弱みを見せることになりかねないためです。

裁判官は、個別に聞いた当事者の本音や譲歩の限度を、そのまま直接相手方に伝えることはありません。双方の意向を中立的な立場で汲み取り、どこに合意の可能性があるのかを探りながら、条件の調整を行います。秘密が守られる環境で裁判官と直接対話ができる仕組みがあるため、当事者は相手の反応を過度に恐れることなく、自身が許容できる現実的な解決策を検討することが可能になります。

4.裁判官から提示される和解条項案

交互面接を通じて双方の考えが整理されてくると、裁判官から具体的な和解条項の案が作成され、提示されることがあります。この和解案は、裁判官がこれまでの主張や証拠、そして面接で得た情報を総合して、妥当であり合意が得らえる可能性があると考える解決の形を示したものです。

しかし、和解は契約の一種であり、あくまで当事者間の合意によって成立します(民法第695条)。したがって、裁判官から和解案が示されたとしても、当事者はそれに応じる義務はありません。当事者の一方が拒絶すれば、和解が成立することはありません。

民法

(和解)
第六百九十五条 和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。

ここで生じる不安として、裁判官からの和解案を拒絶して判決を求めた場合、裁判官の心証を損ね、自分に不利な判決を書かれたり、その和解案と全く同じ内容の判決が言い渡されたりするのではないかという懸念があります。

しかし、和解案がそのまま判決の内容に直結するとは限りません。判決は、厳格な証拠法則に基づいて、法的な権利義務の有無に決着をつけるものです。これに対し、和解は必ずしも厳密な証拠だけに基づく必要はなく、法律論から離れた事案の妥当性や、当事者の将来の生活状況、さらには紛争の抜本的な予防といった柔軟な要素を含めて検討されます。

そのため、裁判官が和解であればこの条件が座りが良いと考えて提示した案であっても、いざ判決の論理を組み立てる段階になれば、証拠関係の制約から全く異なる結論が導き出される事案は十分にあり得ます。提示された和解案を受け入れるかどうかは、判決で敗訴するリスクと、早期解決による精神的・時間的な解放という利益を冷静に比較検討して決断すべきことになります。

5.控訴審における和解提案の特徴

第一審の判決に不服があり、高等裁判所へ控訴した場合においても、和解の手続きがとられることはあります。控訴審の審理は、第一審での審理を前提として行われる続審制をとっているため、非常に進行が速いのが特徴です。多くの場合、第一回の口頭弁論期日で結審となり、そのまま判決期日が指定されます。

しかし、事案によっては、この第一回期日後や、判決期日が指定された後に、裁判官から和解が提案されることがあります。

控訴審における和解手続きは、第一審の和解期日のように、当事者から個別に詳細な考えを聞き出して調整を図るというよりも、裁判官から直接的かつ具体的な和解案が提示される傾向にあります。これは、第一審ですでに双方の主張や証拠が出尽くしており、裁判記録を読み込んだ控訴審の裁判官が、事案の全体像と最終的な結論の方向性をすでに把握しているためです。

控訴審で提示される和解案は、第一審判決の結論を踏まえつつ、それを修正して事案を終局的に解決させようとするものです。判決期日が迫る中で事実上の和解検討が行われることも多く、当事者には迅速かつ冷静な判断が求められます。第一審判決という明確な基準が存在する状況下で、さらに最高裁判所への上告を見据えて争いを続けることの負担と、裁判官が提示する解決案の妥当性を比較し、最終的な終止符を打つかどうかを選択します。

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