1.相手方が「弁護士に相談した」と言及する発言の本質
当事者同士で話し合いや交渉を行っている最中、相手方から「既に弁護士に相談している」あるいは「専門家に意見を聞いた」といった言葉が発せられることがあります。このような発言を投げかけられると、相手方が強力な後ろ盾を得たように感じられ、自身の主張や立場が不利になったかのような圧迫感を覚えるかもしれません。
しかし、相手方が単に弁護士へ相談した事実を口にしている段階においては、過剰に動揺したり自らの主張を撤回したりする必要はありません。法律相談を受ける行為自体は、どのような者であっても自由に行うことができます。専門家に一度意見を聞いたことと、その弁護士が正式に代理人として交渉の場に介入することとの間には、大きな隔たりが存在します。
相手方に正式に代理人弁護士が就き、「今後は弁護士と話し合ってほしい」と言うのでなければ、相手方の発言は、交渉を優位に進めるための牽制や心理的な威嚇でしかありません。本当に弁護士の意見を聞いたのか確認のしようがない以上、相手方の言動やその背景にある意図に意識を奪われることには、何の意味もありません。
交渉において真に向き合うべき対象は、相手方が発した言葉の威圧感ではなく、現在提出されている具体的な請求内容や事実関係そのものです。目の前に出されている相手方の主張の適否に集中すべきです。
2.「弁護士が請求可能と言っていた」という主張を気にする必要はない
交渉の現場において、相手方が「弁護士に確認したところ、この金額を問題なく請求できると言われた」といった主張をすることがあります。弁護士の見解だと言われると、それが正しさを帯びているように聞こえてしまうかもしれません。しかし、この種の主張についても真に受けて検討する必要性は非常に低いです。その最大の理由は、相手方が弁護士に対してどのような前提条件や事実関係を伝えたのかが、第三者であるこちら側からは一切確認できないからです。
法律相談において、相談者が自身に都合の良い事実のみを強調し、自分にとって不都合な経緯や証拠を伏せて説明していた場合、弁護士から引き出される回答もその偏った前提に基づくものにならざるを得ません。
事実関係の全貌が共有されていない状態での弁護士の判断は、実際の紛争解決においてはあくまでも方向性以上の意味がないことは珍しくありません。さらに、相手方の弁護士が本当に「請求可能」と回答したのかどうかについても、確認する手段はありません。
相手方が自身の都合が良いように解釈して発言している可能性もあります。弁護士の発言が真実であり、費用面での不一致や勝訴の見込みなどの観点から依頼に至らなかった可能性もありますが、確認できない情報に振り回されることは合理的とは言えません。
3.根拠を欠く結論のみの主張と法的根拠を伴う請求の違い
交渉の過程においては、「弁護士が請求できると言っていた」という結論のみを反復する相手方よりも、具体的な法律の条文や過去の裁判例を挙げて請求を行ってくる相手方のほうが、交渉や議論を成立させやすいことが多いです。単に弁護士の名称を引き合いに出して結果だけを主張する姿勢は、自らの請求を裏付ける客観的な法理や証拠が不足していることの裏返しであることが多いためです。
これに対して、法律上の根拠となる条文や具体的な事実経過を客観的に示しながら主張を組み立ててくる相手方であれば、その根拠が現在の事案に適合しているかどうか、主張されている損害や義務の範囲が適正であるかどうかを論理的に検証していくことができます。
相手方がどれほど弁護士の存在を強調したとしても、具体的な法的論拠が示されていないのであれば、その主張は検討に値する客観性を欠いていると判断せざるを得ません。相手方の言葉の勢いに流されるのではなく、提示されている主張の内容が合理的なのかを見極めるべきです。
4.相手方の発言に惑わされずに対応する
相手方が真に弁護士を代理人として選任した場合には、通常、代理人弁護士から「受任通知」と呼ばれる書面が郵便などで送付されてきます。そのような正式な書面が届いていない段階であれば、相手方がどれほど弁護士の関与を主張していたとしても、あくまで当事者個人間の交渉として対応を継続することが原則となります。
主張について文書での提示を求めるなどし、送られてきた内容に対して回答を準備するという手順を踏むことで、その場の勢いや感情に流されるリスクを低減させることができます。
「弁護士」という言葉の多用は、交渉における焦りの表れとして把握することも可能です。確認不能な第三者の見解という不確かな要素を交渉から排除し、事実と法的規範のみを基準として淡々と話し合いを進めていくことが、不当な要求を退け、適切な解決へと至る方法になります。
