1.親兄弟や配偶者であっても個人の借金を請求はできない
個人間の金銭消費貸借(民法第587条)により生じる法律関係は、契約の当事者である貸主と借主の二者間にのみ帰属します。私法上の原則として私的自治の原則が存在し、他人の法律行為によって自己が義務を負わされることはありません。
法律上は家族であっても独立した別個の人格であり、他人の債務について自動的に履行義務を負担することはありません。家族の借金は家族が肩代わりして支払うのが当然であるという道義的観念が主張される場合もありますが、法的な責任とは区別されなければなりません。
法律上の請求権が存在しない以上、債権者が債務者の親、兄弟姉妹、配偶者等に対して代わりに支払うよう直接要求したとしても、家族側にはそれに応じる義務はありません。また、債務者本人が返済を怠っているからといって、家族の所有する財産である実家の不動産や家族名義の預貯金を差押えたり、法的手続きの対象にすることもできません。強制執行の対象となるのは、債務名義に表示された債務者本人の固有の財産に限られます。
したがって、家族の資産がどれほど潤沢であっても、債務者本人の名義になっていない限り、債権回収の引き当てとすることはできません。
2.家族に対して法的な支払義務が発生する例外
本来は第三者である家族に対して法的な返済義務が生じる事態は、例外的な事由が存在する場合に限られます。
(1) 保証人、連帯保証人
代表的な事由は、家族が債務者本人の借金について保証人または連帯保証人になっている場合です。
保証契約は債権者と保証人との間で成立する書面による契約(民法第446条第2項)であり、主債務者が履行しない場合に代わりに履行する義務を引き受けたことになりまうす。この契約より初めて、家族に対して直接の履行請求や訴訟の提起が可能となります。
(2) 相続
次に考えられる事由は、債務者本人が死亡し、その家族が相続人となった場合です。
人の死亡により相続が開始すると(民法第882条)、相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法第896条)。これにはプラスの財産だけでなく金銭債務などのマイナスの財産も含まれるため、家族は相続分の割合に応じて債務を引き継ぐことになります。
ただし、相続人が家庭裁判所で相続放棄の手続き(民法第915条、第938条)を行った場合は、最初から相続人とならなかったものとみなされるため(民法第939条)、結果として返済義務を免れます。
(3) 日常家事債務
さらに限定的な例外として、日常家事債務の連帯責任が挙げられます。
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他方の配偶者もこれによって生じた債務について連帯責任を負います(民法第761条)。
しかし、この日常家事債務とは、食料品の購入や光熱費の支払い、居住用物件の賃料など、夫婦の共同生活に通常必要な支出に限られます。一方の事業資金や娯楽目的での金銭借入れが日常家事債務と認められることはありません。したがって、夫婦間であっても、個人的な金銭消費貸借の返済義務が他方に当然に及ぶことはありません。
3.親の資産や実家の財力を理由にした貸し付けに潜む法的リスク
借主が金銭を借り入れようとする際、実家が裕福であることや親の資産が存在することを説明し、信用を補完しようと試みる場面があります。しかし、こうした事情を返済の裏付けとして貸し付けを行うことは、重大なリスクが伴います。親の資力と子の返済義務は法的に完全に分離されており、実家にどれほどの資産があろうとも、親が保証人になっていない限り、貸主が親の財産から強制的に回収する手段はないのです。
借主が親の金で返すと口頭で主張していたとしても、親本人の意向や同意がない限り、その言葉に法的拘束力はありません。借主自身の支払能力に期待ができない場合、実家の存在を理由に貸し付けると、最終的に貸し倒れとなる可能性が高くなります。金銭を貸し付けるに当たって回収の安全性を確保したいのであれば、借主の言葉のみに頼らず、資産を有する家族を保証人として契約に参加させることが必要です。
具体的には、親本人との間で書面による保証契約を直接締結するか、実家の不動産に抵当権を設定するなどの担保権設定手続きを行うことになります。もし相手方の家族が保証人になることを拒絶したり、借主自身が家族への相談を嫌がるのであれば、その家族からの回収可能性は最初から存在しないと言わざるを得ません。
裕福な家族がいるのであれば、本来は第三者ではなく、その家族から直接資金調達を行えばよいはずです。家族の資産をあてにした貸し付けの申し出に対しては、根拠のない安心感を抱くことなく、契約の客観的な安全性を見極める慎重さが重要です。
4.返済を拒否する債務者本人および家族と対峙した際の対応
債務者が返済期日を過ぎても履行しない場合、感情的になって家族の自宅へ押しかけたり、家族に対して執拗に催告を行う行為は控えなければなりません。法的根拠のないまま家族に支払いを要求する行為は、相手方との間で不必要な摩擦を生むだけでなく、内容によっては不退去罪(刑法第130条)や強要罪(刑法第223条)、名誉毀損罪(刑法第230条)などの違法な行為と評価されるおそれがあります。法的な回収手段を正当に進めるためにも、不適切な初期対応によって自らの立場を悪化させるべきではありません。
初期対応としての作業は、まず債務者本人との契約関係を確認し、債務不履行の事実を証拠として整理することです。金銭消費貸借契約書、借用書、銀行の振込明細、返済を約束した電子メールやメッセージアプリのやり取りなどを取りまとめ、契約内容と現在の未払額を特定します。書面が存在しない場合であっても、金の授受を示す口座履歴や返済を認めるやり取りの記録を提示できるように準備を進めます。
次に、債務者本人に対して正式な請求手続きを行います。口頭での催告に応じない場合は、内容証明郵便を利用して履行の催告を行います。債務者本人が返済に応じない意思を明確にしている場合でも、法的義務のない家族へのアプローチを避け、訴訟提起など本人に対する手続に集中することになります。
5.家族からの自発的な弁済を受ける際の注意事項
法的な支払義務を負わない家族であっても、債務者本人の代わりに、自発的な意思で弁済を行う第三者弁済は可能です(民法第474条第1項)。債務者の親や配偶者が本人の代わりに返済して事態を収束させたいと申し出てきた場合、その受領自体は法的に有効であり、債権者としては目的を果たすことができます。
ただし、家族から第三者弁済を受ける際には、後々のトラブルを防ぐための配慮が必要です。支払う家族側が後から返金を求めたり強要されたと主張する事態を防止するため、受領する金銭が家族自身の自発的な意図に基づく第三者弁済であることを明示した書面を作成することが望ましいです。
