1.裁判公開の原則に基づく法廷傍聴の仕組みと具体的な参加方法
裁判は、憲法によって公開が原則とされています(憲法第82条)。これは、裁判が公正かつ適正に行われているかを国民が監視できるようにするための制度です。そのため、基本的にはどのような事件であっても、特別な資格や事前の申請なく、誰でも法廷に入って裁判を傍聴することが認められています。これは、民事訴訟であっても刑事訴訟であっても変わりません。
裁判が行われる法廷(部屋)の入り口には、その日に執り行われる事件名や当事者の氏名、開廷時刻が記載された開廷表が掲示されています。空席があれば自由に出入りが可能です。ただし、社会的に注目を集める事案や、著名人が関与する事案など、傍聴希望者が法廷の収容人数を上回ることが予想される場合には、傍聴券の交付による抽選が行われます。この場合、基本的には当日朝、裁判所で抽選券を受け取る必要があります。抽選に当選しなければ法廷内に入ることはできませんが、これはあくまで物理的な制限によるものであり、公開の原則を否定するものではありません。
なお、一部の例外として、公の秩序や善良の風俗を害するおそれがある場合には、裁判官の判断により対審を公開しないことがありますが、政治犯罪や出版に関する犯罪、あるいは憲法が保障する国民の権利が問題となっている事案については、必ず公開しなければならないと定められています(憲法第82条第2項)。また、家庭裁判所で行われる家事審判や少年審判は、当事者のプライバシーや少年の健全な育成を保護する観点から、原則として非公開とされています。
2.第三者が民事訴訟記録を閲覧するための条件と具体的な申請手順
民事訴訟においては、法廷での傍聴だけでなく、裁判所に保管されている訴訟記録を閲覧することも、原則として何人に対しても認められています(民事訴訟法第91条第1項)。訴訟記録には、原告が提出した訴状や被告の答弁書、双方の主張を記載した準備書面、証拠、期日調書などが含まれます。
当事者ではない第三者がこれらの記録を閲覧したい場合、まずは対象となる事件を特定しなければなりません。事件を特定するには、事件番号(「令和〇年(ワ)第〇号」など)がわかれば最も確実ですが、不明な場合は、基本的には原告と被告の氏名により特定できます。ただし、一方の当事者の氏名だけでは特定が不十分と判断されます。事件が特定できたら、訴訟記録閲覧申請書を提出します。閲覧には収入印紙が必要となりますが、これによって記録を手に取り、その内容を確認することができます。
閲覧はあくまで裁判所の執務時間内に、指定された場所で行う必要があり、記録を外部へ持ち出すことはできません。また、閲覧中にメモを取ることは自由ですが、自身のカメラやスマートフォンで記録を撮影することは、後述する「謄写」に該当するためできません。
3.利害関係人による訴訟記録の謄写申請と疎明
民事訴訟の訴訟記録の内容を単に確認するだけでなく、そのコピー(謄写)を入手したい場合には、閲覧よりも厳格な要件が課せられます。原則として、訴訟記録の謄写ができるのは、当事者または利害関係を疎明した第三者に限られています(民事訴訟法第91条第3項)。
当事者ではない第三者が謄写を希望する場合、自身がその訴訟の結果によって法的な影響を受ける地位にあることを裁判所に対して疎明しなければなりません。この疎明には、根拠となる疎明資料が必要です。裁判所から利害関係があると認められ、謄写の許可が降りた場合には、コピーをすることができます。謄写には枚数に応じた費用がかかるため、必要な範囲をあらかじめ閲覧で確認し、特定しておくことが効率的です。そのため、謄写を申請する場合には、閲覧と謄写を申請します。
4.刑事事件における訴訟記録閲覧の制限と被害者等に対する例外措置
刑事事件の訴訟記録は、民事事件とは異なり、公開の範囲が限定されています。裁判が継続している間の訴訟記録は、原則として非公開であり、第三者が自由に閲覧することはできません(刑事訴訟法第47条)。これは、捜査上の秘密を保持し、被告人の名誉やプライバシーを保護するとともに、関係者の安全を確保するためです。
ただし、例外的に、裁判所が適当と認めた場合には閲覧が許可されることがあります。特に、犯罪被害者やその遺族については、被害者参加制度などの進展に伴い、訴訟記録の閲覧や謄写が広く認められるようになっています(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第3条)。被害者等は、被告人の氏名や事件番号などを特定した上で、裁判所に対して閲覧・謄写の申し出を行います。裁判所は、被告人の防御を不当に妨げるおそれや、関係者の名誉・安全を著しく害するおそれがない限り、これを許可しなければなりません。
また、裁判がすべて終了し、判決が確定した後の記録(確定記録)については、原則として何人でも閲覧することが可能になります(刑事確定訴訟記録法第4条)。確定記録は検察庁に保管されるため、閲覧を希望する場合は管轄の検察庁に対して申請を行います。ただし、確定記録であっても、プライバシーに関わる重要な秘密が含まれている場合や、関係者の名誉を著しく損なうおそれがある場合には、閲覧が制限されるため、実質的な原則公開とは言い切れないのが実情です。
5.裁判期日の確認方法とプライバシー保護による閲覧制限の要件
これから行われる裁判の期日や、過去に行われた期日の進捗状況を知りたいという要望は多く聞かれます。しかし、裁判所に対して電話で「〇〇さんの裁判はいつですか」と問い合わせても、裁判所が答えることはありません。
裁判所は、特定の個人に関する裁判情報を電話一本で教えることはプライバシー保護の観点から差し控えているためです。期日を確認するためには、実際に裁判所に足を運び、当日の開廷表を確認するか、あるいは前述した民事訴訟記録の閲覧手続きを通じて、記録の中に綴じられている「期日調書」や「期日指定書」を確認するしかありません。
また、民事訴訟において、訴訟記録の中に当事者の私生活上の重大な秘密や、営業秘密(ノウハウや顧客リストなど)が含まれている場合、裁判所は当事者の申し立てにより、特定の範囲について閲覧や謄写ができる者を当事者に限定する「閲覧等の制限」の決定を下すことができます(民事訴訟法第92条第1項)。この決定が出されると、たとえ第三者であっても、あるいは利害関係がある者であっても、制限された部分については内容を確認することができなくなります。
このように、裁判公開の原則と、個人のプライバシーや企業の機密保持という相反する価値は、法的な手続きによって慎重に調整されています。裁判公開の原則があるとはいえ、自身が知りたい情報がどの範囲まで公開されているのか、現実に入手できるかは、必ずしも簡単ではないのが実情です。
