1.決闘罪が成立する条件と現代における適用の実態
決闘罪とは、「当事者間の合意により相互に身体又は生命を害すべき暴行をもって争闘する行為」を処罰する犯罪です。この法律は「決闘罪ニ関スル件」という名称であり、明治22年(1889年)に制定された非常に古い法律です。現代の日常生活においては全く無縁の法律であるように思われがちですが、現在でも時折、この法律が適用されて逮捕者が出たというニュースが報じられます。
現代において決闘罪が適用されるのは、主にいわゆる「タイマン」と呼ばれる一対一の喧嘩の約束を取り決めて実行に及ぶような事案です。決闘罪における「決闘」とは、当事者間の合意に基づきます。つまり、偶然路上で肩がぶつかって口論から殴り合いに発展したような突発的な喧嘩ではなく、事前に互いが合意して闘争の場を設けることが決闘罪の成立には不可欠となります。
現代では、スマートフォンの普及によって少年同士や不良グループ間のトラブルがSNS上で可視化されやすくなり、喧嘩の合意形成の過程が文章として明確に残るようになりました。その結果、突発的な暴力事件ではなく、事前に合意された決闘であるという証拠が確保しやすくなり、この明治時代の法律が現代のトラブルに対して適用される事態が生じているといえます。
2.決闘罪に定められている具体的な罰則と関連する犯罪
決闘罪ニ関スル件では、決闘の実行そのものだけでなく、決闘に至るまでの様々な段階や、周辺で関与した人物についても細かく罰則が規定されています。まず、決闘を挑んだ者、およびその挑みに応じた者は、実際の決闘が行われる前であっても、六ヶ月以上二年以下の拘禁刑に処せられます(決闘罪ニ関スル件第1条)。すなわち、SNS等で「今からあの公園で決着をつけよう」とメッセージを送り、相手が「分かった」と返信した時点で、すでに犯罪が成立し処罰の対象となるということです。
そして、実際に決闘を行った者は、二年以上五年以下の拘禁刑に処せられます(決闘罪ニ関スル件第2条)。
さらに注意しなければならないのは、当事者以外の周辺人物に対する罰則です。決闘の立会人となった者や、決闘が行われることを知りながらその場所を提供した者も、一年以下の拘禁刑に処せられます(決闘罪ニ関スル件第4条)。喧嘩のルールを取り決めたり、勝敗の判定をしたりするいわゆる「レフェリー」役の人物や、決闘の証人となるような人物であっても、処罰される可能性があります。
また、決闘の最中に相手に怪我を負わせたりしたときは、決闘罪の罰則と刑法に定められた傷害罪(刑法第204条)などの罰則を比較し、より重い刑罰によって処断されることになります(決闘罪ニ関スル件第3条第6条)。単なる喧嘩であれば罰金で終わることもありますが、決闘罪が適用されると、罰金は適用できなくなってしまいます。
3.決闘罪が適用されることの影響と正当防衛
警察などの捜査機関が、一般的な暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(刑法第204条)ではなく、あえて明治時代に作られた決闘罪を適用するのには、明確な捜査上の理由があるといえます。通常の路上での喧嘩や乱闘騒ぎが発生した場合、当事者の双方が「相手が先に殴ってきたからやり返しただけだ」「自分は身を守るために防衛した」と主張することが感がられます。このような場合、当事者は、正当防衛(刑法第36条)を主張することが考えられます。
しかし、事前にSNSのやり取りなどで喧嘩の約束を取り付けていた事実が証明できれば状況は一変します。決闘罪は、互いに暴行を加えることを事前に合意していることを処罰の根拠としています。あらかじめ闘争することを約束してその場に赴いている以上、相手から攻撃されることは当然に予測できているため、もはや「急迫不正の侵害」に対する防衛行為としての正当防衛は成立が非常に難しくなります。
さらに、決闘罪は立会人や場所の提供者も処罰対象としているため、喧嘩をしている当事者二人だけでなく、その場に集まっていた関係者なども一斉に検挙することが可能です。治安維持の観点から、決闘罪は現代の捜査機関にとっても機能的であり、意義のある法規範であるといえます。
4.未成年者が決闘罪で検挙された場合の手続きと弁護士の役割
決闘罪の容疑で検挙される者には、未成年者も珍しくありません。未成年者が犯罪の容疑をかけられた場合、成人の刑事手続きとは異なり、少年法に基づく手続きが適用されます(少年法第2条)。警察による逮捕や取り調べが行われた後、事件は家庭裁判所に送致されます。決闘罪は、単なる突発的な喧嘩とは異なり、事前に計画を立てて集団で行動に及ぶなど、非行の根深さや不良交友の広がりが疑われる事案となります。そのため、家庭裁判所の判断によって、重い処分が下されることもあります。このような重大な結果を回避するためには、早期に弁護士(付添人)を選任することも検討に値します。
弁護士は、本当に法律上の「決闘」と呼べるほどの明確な合意が存在したのか、あるいは一方が他方を脅迫して無理やり呼び出しただけであり、実態は一方的な暴力やいじめに過ぎなかったのではないかといった事実関係の調査を行います。例えば、決闘に応じる意思表示は相手に伝わることが必要です(広島高等裁判所昭和33年7月17日判決)。そのため、決闘を挑まれたとしても、明確な承諾をしていなければ、決闘罪の成立が否定することもあり得ます。
さらに、被害者がいる場合には示談交渉、学校や保護者と連携して少年が二度と非行に走らないための監督環境を整え、その実績を家庭裁判所に報告することが大切です。
