1.レンタル品やリース品の売却は刑法上の「横領罪」に該当する
借金返済に追われる中で、手元にあるスマートフォン、家電製品、あるいはWi-Fiルーターなどのレンタル品やリース品を現金化してしまうケースは珍しくありません「後で弁償すればいい」「とりあえずお金が必要」という安易な気持ちで行ってしまうことが多いですが、これは法律上、極めて重大な犯罪行為となります。
レンタル品やリース品の所有権は、契約者(あなた)ではなく、レンタル会社やリース会社にあります。契約者はあくまで「借りている」状態です。これを無断で第三者に売却したり質入れしたりする行為は、他人の物を勝手に処分したことになり、横領罪(刑法第252条1項、5年以下の拘禁刑)に処される可能性がある犯罪です。
もし、最初から売却する目的でレンタル契約を結んだ場合は、詐欺罪(刑法第246条、10年以下の拘禁刑)に問われる可能性すらあります。多くの場合は、生活苦や返済苦から突発的に売却してしまう横領のケースですが、いずれにせよ刑事事件化するリスクを抱えることになります。また、買取店に対しても、自分が正当な所有者であると偽って売却していれば、買取店に対する詐欺行為も成立し得ます。
このように、レンタル品の売却は単なる契約違反や民事上の債務不履行にとどまらず、複数の犯罪を構成する深刻な事態であることをまずは理解する必要があります。
2.自己破産を申し立てても「免責」されないリスクが高まる
多重債務の解決手段として自己破産を検討している場合、この「レンタル品の売却」という事実は破産手続きでも大きな障害となります。自己破産では、裁判所が借金の支払い義務を免除(免責)する手続きを含みますが、すべての借金が無条件になくなるわけではありません。
まず、破産法には「免責不許可事由」があります。これは、「このような行為があった場合、借金を免除しない」というリストです。レンタル品を換金目的で処分する行為は、債権者を害する行為など(破産法第252条1項2項)に該当する可能性が高く、最悪の場合、自己破産をしても免責が得られないという事態を招きかねません。
さらに、仮に裁判所の裁量によって免責が許可されたとしても、横領によって生じた損害賠償請求権(所有者への弁償義務)は、「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」として、非免責債権(免責が許可されても残る債務)として扱われる可能性があります。つまり、横領したレンタル品の損害賠償は、破産後も支払い続けなければならないリスクがあるのです。
3.業者への弁償は「偏頗弁済」となり手続き全体を失敗させる
「横領行為がバレるとまずいから、レンタル会社にだけは代金を支払って穏便に済ませたい」と考えるのは、人情としては自然です。しかし、自己破産の手続きにおいて、特定の債権者(この場合はレンタル会社)にだけ優先して返済を行うことは偏頗弁済として禁止されています。
自己破産は、すべての債権者を平等に扱うことが大原則です。弁護士に依頼して受任通知を送った後や、支払不能になった後に、刑事告訴を恐れてレンタル会社にだけ弁償を行うと、他の債権者(カード会社や銀行など)を害する行為とみなされます。
この偏頗弁済もまた、免責不許可事由の一つです。保身のために行った弁済が原因で、管財人による否認権の行使されたりや、最悪の場合は免責不許可という結果を招き、経済的更生の道を自ら閉ざしてしまうことになりかねません。
ここに、「返さなければ横領で訴えられるかもしれない」「返せば偏頗弁済で破産で免責が得られない」という、非常に苦しいジレンマが生じます。この板挟みの状態で、ご自身の判断だけで動くことは事態を悪化させてしまいます。
4.業者側の事情と刑事事件化の現実的な可能性
では、実際にレンタル品を売却してしまった場合、必ず刑事事件となるのでしょうか。結論から言えば、業者側の対応や被害金額、そして事後の対応によって変わってきます。
レンタル会社やリース会社にとっても、刑事告訴は時間と労力、そして費用のかかる手続きです。警察に被害届を出したり告訴状を受理させたりするためには、証拠資料の整理や事情聴取への対応が必要となります。数万円から数十万円程度の被害金額であれば、コストの観点から、あえて刑事事件化までは踏み切らないという経営判断をする業者も少なくありません。
また、警察も、単なるレンタル品の未返却案件については、「まずは当事者間で話し合ってください」と民事トラブルとして処理しようとする傾向もあります。もちろん、組織的・計画的な犯行や、被害額が極めて大きい場合、悪質性が高い場合はこの限りではありません。
しかし、「刑事事件化しないこともある」というのは、あくまで結果論に過ぎません。業者が「許せない」と判断すれば、被害届は提出されます。重要なのは、業者に対して誠実に対応し、被害を最小限に抑える姿勢を見せることです。そうはいっても、弁償をすると偏頗弁済となります。ここで必要となるのが、法律の専門家である弁護士による介入と交通整理です。
5.ひとりで隠さず弁護士に説明することが解決への近道
もし、既にレンタル品を売却してしまった場合、最もやってはいけないことは、その事実を依頼する弁護士に隠すことです。「怒られるのではないか」「依頼を断られるのではないか」という不安から事実を隠したまま自己破産手続きを進めると、後で債権者からの指摘や管財人の調査で発覚します。
手続きの途中で嘘が発覚した場合、裁判所の心証は最悪となり、本来なら裁量免責が得られたかもしれない事案でも、免責不許可となる可能性が極めて高くなります。逆に言えば、最初の段階で正直に申告していていれば、弁護士は対策を講じることができます。
例えば、弁護士から業者に対し、現在の経済状況と破産申立ての予定を通知し、刑事告訴を待ってもらうよう交渉を行います。刑事事件化しても業者には経済的メリットがないことが多いですから、理解を示してくれる業者も少なくありません。
レンタル品の売却という事実は消せませんが、その後の対応次第で、最悪の事態を回避し、人生の再出発を図ることは十分に可能です。後ろめたさから事実を隠蔽しようとせず、まずは弁護士に相談するなどして、対応を検討することが望ましいです。
